“Caramon! Brother!”
But Caramon ignored him. Gripping Raistlin firmly, he dragged the frail mage up a hill.
伝説5巻p252
「キャラモン! 兄さん!」
だがキャラモンは耳を貸さなかった。がっちりとレイストリンをつかみ、脆弱な魔法使いを丘の上へ引きずっていく。
Then Raistlin caught a glimpse of white robes. Elistan was binding her to a stake.
そのとき、白いローブが目にはいった。エリスタンがクリサニアを杭に縛りつけているところだ。
“Witness her fate and see your own, witch!”
「この女の運命を見て、おのれの運命を知るがいい、魔法使いめ!」
The fire spread quickly, soon engulfing Crysania’s white robes.
火は見る間に広がり、クリサニアの白いローブをのみこんでいく。
She managed to raise her head, seeking for one final look at Raistlin. Seeing the pain and terror in her eyes, yet, seeing, too, love for him, Raistlin’s heart burned with a fire hotter than any man could create.
クリサニアはどうにか頭をもたげ、レイストリンに最後の一瞥を向けた。彼女の目に浮かぶ苦痛と恐怖を見、それでもまだ自分に向けられている愛を見て、レイストリンの胸はどんな炎よりも熱い炎で焼き焦がされた。
“They want magic! I’ll give them magic!” And, before he thought, he shoved the startled Caramon away and, breaking free, raised his arms to the heavens.
「魔法がほしいんだな! なら魔法をくれてやる!」考えるよりはやく、レイストリンは仰天しているキャラモンを突き放し、手を振りほどいて両手を高々と天に向けてつきあげた。
And, at that moment, the words of magic entered his soul, never to leave again.
その瞬間、呪文が心にはいってきた。今度はすりぬけてはいかない。
Lightning streaked from his fingertips, striking the clouds in the red-tinged sky. The clouds answered with lightning, streaking down, striking the ground before the mage’s feet.
レイストリンの指先から稲妻がほとばしり、赤みがかった空の雲を撃った。雲がそれに応えて打ちおろした稲妻が、魔法使いの足のすぐ前の地面を直撃した。
He had been deceived--by himself!
かれは欺かれていたのだ――自分自身に!
It is nothing more than a reflection of my mind! All I have been doing is traveling through my own mind!
<奈落>はぼくの心の映し鏡にほかならなかったのだ! ぼくがしてきたのは、自分の心を旅することだった!
My magic did not work because I doubted it, not because she prevented it from working.
ぼくの魔法が効かなかったのは、女王が魔法を妨げていたからではなく、ぼくがそう思ったからだ。
“Raistlin?” Her face was horribly burned, sightless eyes stared into the emptiness around her, she reached out a hand that was little more than a blackened claw.
「レイストリン?」恐ろしく焼けただれた顔になり、もはや何も見えない目で周囲の虚空を見つめながら、クリサニアは手をのばした。それはもはや黒焦げになった骨組みでしかなかった。
“No, Crysania, you have not,” he said, his voice cool and even.
「いや、クリサニア。失敗してはいない」レイストリンの声は冷ややかで抑揚がなかった。
The cracked and blistered lips parted in a smile.
ひび割れ、火ぶくれのできた唇が少し開いて微笑んだ。
“Stay with me, Raistlin. Stay with me while I die....”
「わたしといっしょにいてください、レイストリン、わたしが死ぬまでいっしょに……」
***
ひび割れた唇が訴える”Stay with me...while I die...”
あの疫病の村の若い僧侶がクリサニアに願ったのと同じ内容です。そして魔法を取り戻したレイストリンが放った、雲を撃つ稲妻とそれに応えて打ちおろされた稲妻、あれは村を焼き払った魔法と同じですね。神々への宣戦布告。
そして、その後には「血の試練」が続いたのでした。
One by one, Raistlin burned those memories in his mind, setting fire to them with his magic, watching them turn to ash and blow away in smoke.
ひとつ、またひとつと、レイストリンはそうした記憶を頭のなかで燃やしていった。魔法でそれらに火をつけ、それらが灰になり、吹き払われて煙となってゆくのを見つめていた。
Reaching out his other hand, he freed himself from her clinging grasp.
もういっぽうの手をのばして、レイストリンはクリサニアのすがりつく手から自分の手を自由にした。
“You have served my purpose, Revered Daughter,” Raistlin said, his voice as smooth and cold as the silver blade of the dagger he wore at his wrist.
「きみはぼくの目的のために実によく役だってくれたよ、聖女どの」レイストリンの声は、かれの手首にある短剣の銀の刃のように冷たくなめらかだった。
“Raistlin, don’t leave me! Please don’t leave me alone in the darkness!”
「レイストリン、どうかわたしを置いていかないで! お願いだから、こんな闇の中にわたしを一人にしないで!」
Leaning upon the Stuff of Magius, which now gleamed with a bright, radiant light, Raistlin rose to his feet. “Farewell, Revered Daughter,” he said in a soft, hissing whisper. “I need you no longer.”
<マギウスの杖>――いまやそれはまばゆく明るい光を放っていた――に寄りかかり、レイストリンは立ちあがった。「さらばだ、聖女どの」やわらかな声でささやく。「もはや、きみは必要ない」
***
考えながら「今回はこういう話なんだよ」と旦那に説明しますと「ひどい男じゃん」と当然の答えが返ってきます。確かに初読時は私もそう思ったし、実際酷い行いです。でも、非道いとは思いません。かれはかれの道を歩こうとしているのですから。破滅に繋がる道を。
焼かれたクリサニアの、思い出までも焼き払う必要があったのは、<奈落>の仕組みと女王のやり口を完全に理解したからでしょう。自分の中の、利用されかねない弱みは全て葬る必要があったのです。かれの最後の試練。
5巻後半、<奈落>でのレイストリンの旅路。エントリタイトル(お母さん)(兄さん)(先生)(旧友たち)(聖女どの)の前には全て(ぼくの)が省略されているのですよ、実は。これでもう、かれの中には何もありません。完全にからっぽです。
…いや、まだ一つだけ残っていましたね。最後の最後にかれを救うもの、「 」が。
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