Behind him, he could hear the mocking laughter gurgle into harsh, hissing breath. He could hear the slithering sounds of a gigantic scaled tail, the creaking of wing tendons. Behind him, five heads whispered words torment and terror.
伝説6巻p173
背後で、あざけりの笑い声が、押し殺したような荒々しい吐息に変わるのが聞こえる。鱗に覆われた巨大な尻尾をずるずると這いずる音や、翼の腱がきしむ音が聞こえる。背後で、五つの頭が苦しみと恐怖の呪文をささやくのが聞こえる。
Steadfastly, Raistlin stood, staring into the Portal. He saw Tanis run up to help Caramon, he saw him take Crysania in his arms. Tears blurred Raistlin’s vision. He wanted to follow! He wanted Tanis to touch his hand! He wanted to hold Crysania in his arms...He took a step forward.
レイストリンはしっかりと足を踏みしめて立ち、<扉>の中を見つめた。タニスがキャラモンに駆けより、その手からクリサニアを受けとるのが見えた。涙で視界がぼやけていく。あとを追っていきたかった! タニスに手にふれてもらいたかった! クリサニアを腕に抱きしめたかった……足が一歩、前に踏みだした。
He saw Caramon turn to face him, the staff in his hand.
Caramon stared into the Portal, stared at his twin, stared beyond his twin. Raistlin saw his brother’s eyes grow wide with fright.
キャラモンがこちらを向く。手には杖を握っている。
双子の兄は<扉>の中をのぞきこみ、片割れの弟を見つめた。そして、その向こうを。兄の目が恐怖で大きく見開かれるのを、レイストリンは見た。
Raistlin did not have to turn to know what his brother saw. Takhisis crouched behind him. He could feel the chill of the loathsome reptile body flow about him, fluttering his robes. he sensed her behind him, yet her thoughts were not on him. She saw her way to the world, standing open....
振り向く必要はなかった。兄が見たもの――タキシスが、自分の背後にうずくまっていることはわかっていた。爬虫類の身体のぞっとするような冷気が自分を包みこみ、ローブをはためかせているのが感じられた。ただ、すぐうしろにそうした<女王>の気配はあったが、<女王>の意識はまだレイストリンに向けられてはいなかった。<女王>は向こうの世界への通路を見ていた。まだ開いたままの通路を……
“Shut it!” Raistlin screamed.
A blast of flame seared Raistlin’s flesh. A taloned claw stabbed him in the back k. He stumbled, falling to his knees. But he never took his eyes from the Portal, and he saw Caramon, his twin’s face anguished, take a step forward, toward him!
But his twin’s face anguished, take a step forward, toward him!
「<扉>を閉じろ!」レイストリンは絶叫した。
火の玉がレイストリンの肌を焼き焦がした。鋭くとがった鉤爪が背中につき刺さる。レイストリンはよろめき、膝をついた。だが、かれは<扉>から目をそらさなかった。キャラモンが見えた。苦悩に顔をゆがめ、一歩前に踏みだすのが。レイストリンのほうへ!
“Shut it, you fool!” Raistlin shrieked, clenching his fists. “Leave me alone! I don’t need you any more! I don’t need you!”
「<扉>を閉じろ、ばか!」レイストリンは両の拳を握りしめ、金切り声をあげた。「ぼくのことは放っておいてくれ! もう兄さんなんか必要ないんだ! 兄さんなんか必要ないんだよ!」
And then, the light was gone. The Portal slammed shut, and blackness pounced upon him with raging, slathering fury. Talons ripped his flesh, teeth tore through muscle, and crunched bone. Blood flowed from his breast, but it would not take with it his life.
He screamed, and he would scream, and he would keep on screaming, unendingly....
そのとき、光が消えた。<扉>が閉じ、途方もなく激しい憤激とともに闇がレイストリンに襲いかかった。鉤爪が肌を引き裂き、歯が肉を噛み裂いて骨をばりばりと砕いた。胸から血が流れだしたが、それは生命を奪うものではなかった。
レイストリンは悲鳴をあげた。絶叫する。ずっと絶叫しつづけるのだ。永遠に……
Something touched him...a hand....He clutched at it as it shook him, gently. A voice called, “Raist! Wake up! It was only a dream. Don’t be afraid. I won’t let them hurt you! Here, watch...I’ll make you laugh.”
(何かがふれた……手だ……やさしく揺すぶるそれを、レイストリンはつかんだ。声が呼ぶ。「レイスト! 目をさませ! ただの夢だよ。怖がることはない。おれがいる。おまえに害を加えさせやしないよ! ほら、見てごらん……おれが笑わせてやるよ」)
The dragon’s coils tightened, crushing out his breath. Glistening black fangs ate his living organs, devoured his heart. Tearing into his body, they sought his soul.
竜のとぐろがぐっとしまり、レイストリンの息を吐きださせた。ぎらぎら光る黒い牙がかれの臓器を生きたまま喰らい、心臓を貪った。さらに身体を引き裂き、レイストリンの魂を探し求める。
A strong arm encircled him, holding him close. A hand raised, gleaming with silver light, forming childish picture in the night, and the voice, dimly heard, whispered, “Look, Raist, bunnies....”
He smiled, no longer afraid. Caramon was here.
(力強い腕がかれにまわされ、ぎゅっと抱きしめた。銀色の光に照らされてきらめく手があがり、夜の闇の中で子どもだましの影絵をつくる。そして、おぼろげなささやき声。「ほうら、レイスト、ウサちゃんだよ……」
レイストリンはにっこりと微笑んだ。もう怖くはない。キャラモンがいる)
The pain eased. the dream was driven back. From far away, he heard a wail of bitter disappointment and anger. It didn’t matter. Nothing mattered anymore. Now he just felt tired, so very, very tired....
Leaning his head upon his brother’s arm, Raistlin closed his eyes and drifted into a dark, dreamless, endless sleep.
苦痛がやわらいだ。夢は追いはらわれた。ずっと遠くのほうから、激しい失望と怒りの叫びが聞こえた。だがそんなことは気にならない。もう何も気にすることはなかった。いまはただ、疲れているだけ。とても、とても激しい疲れを……
兄の腕に頭をもたせかけ、レイストリンは目を閉じた。そして暗い、夢も見ない底なしの眠りに落ちていった。
***
二十年以上前の初読時のことをはっきりと覚えています。徹夜明けの白い光の中、眠気はもちろん熱気もまた醒めきった脳内にこだまするこの叫びが、キャラモンやタニス同様、自分の中からも消えることはないのだろうなと。
「伝説」のペーパーバックが届いた時、真っ先に「TEST OF THE TWINS」を手に取り、見当をつけて開いた頁はまさにここでした。
“I don’t need you any more! I don’t need you!”
その後、原文と邦訳を併読しつつ、好きなシーンや台詞をブログで紹介する試みを始めて、戦記5巻p345「影絵」の回でこんなことを妄想しました。
http://wordsofd.blogspot.jp/2015/01/5p345.html
レイストリンが幼い頃に見ていた悪夢の正体は、ここで受けるはずだった拷問の先取りだったんではないかと。予知夢のようなものだったのかも知れないとも思います。
また、この言葉は「兄さんにはもうぼくは必要ないんだよ」と言っているようにも聞こえます。過去での旅路で、レイストリンはキャラモンが見ようとしなかった自分の全てを余すところなく見せました。あんなに自分に依存していた兄が、自分に怒りや憎しみをぶつけることも、必要とあらば自分の願いを拒絶することができるようになったのも見届けました。
もうわかったろう。ぼくらは異なる二人の人間なんだよ。
それでもキャラモンは<奈落>にやってきました。闇路を歩くことを選んだ自分のために、光の中を往くはずだった兄が全てを投げうってここまできてくれた。もう十分だ。もうぼくに生身の兄さんが必要ないように、兄さんにももう生身のぼくは必要ないんだ。
「魂を救うための旅」はここに成就されました。
0 件のコメント:
コメントを投稿