“Enter, Knight of the Black Rose,” repeated Dalamar.
伝説6巻p152
「おはいりください、<黒薔薇の騎士>どの」ダラマールが答えた。
“Do not interfere, Tanis,” Dalamar said softly. “He does not care about us. He comes for one thing only.”
「口出しはしないでください、タニス」
「かれはわたしたちのことのことなどまったく意に介していません」
The orange eyes had found their object in the shadowed corner--the huddled form lying beneath Tanis’s cloak.
橙色に燃える目が隅の暗がりに倒れているものを見つけたのだ――タニスのマントに包まれているものを。
Keep him away! Tanis hear Kitiara’s frantic voice.
(あの男を近づけないで!)キティアラの死にものぐるいの声がタニスの耳の中で響いた。
Lord Soth stopped and knelt beside the body. But he appeared unable to touch it, as though constrained by some unseen force.
ソス卿は足を止め、亡骸のかたわらに膝をついた。だが、触れることはできないようだった。何か目に見えない力が邪魔しているようだ。
“Release her to me, Tanis Half-Elven,” said the hollow voice. “Your love binds her to this plane. Give her up.”
「キティアラを引き渡してくれ、ハーフ・エルフのタニス」
「そなたの愛が彼女をこの世界に縛りつけているのだ。彼女をわたしてくれ」
Tanis, gripping his sword, took a step forward.
タニスは剣を握りしめ、一歩前に進み出た。
“He’ll kill you, Tanis,” Dalamar warned.
“Let her go to him. After all, I think perhaps he was the only one of us who ever truly understood her.”
「ソス卿はあなたを殺すつもりですよ、タニス」ダラマールが警告した。
「キティアラをわたしておやりなさい。なんにせよ、われわれの中で彼女を真に理解していたのはソスだけなのですから」
“Understood her? Admired her! Like I myself, she was meant to rule, destined to conquer!”
「彼女を理解していただと? いや、敬服していたのだ! この私と同じように、キティアラも生まれながらの支配者だった。征服者となる運命にあったのだ!」
***
あなたは支配者だったかもしれませんが、征服者ではありませんでしたね。領地を平和に治め、美しくはなくても財産家の妻にそこそこ満足し、朋輩と旧交を暖めにパランサスに旅したあの春が、一番幸せだったのではないのですか?
But we can feel hatred, we can feel envy, we can feel jealousy and possession.”憎悪も、妬みも、嫉妬も、ダラマールに対してではなかったのですね。全てキティアラ様に向けたものだったのか。だからダラマールには用はない、殺さないのです。最後の最期にそれを悟った彼女の恐怖たるや。
「だが、憎悪を感じることはできる。妬みも、嫉妬も、所有欲も感じることができるのだ」
“But she was stronger than I was. She could throw aside love that threatened to chain her down.”
「そして、彼女はわたしよりも強靭だった。自分を縛りつける恐れのある愛を、彼女はわきへ投げ捨てることができたのだ」
“Better she should die fighting than let her life burn out like a guttered candle.”
「彼女は流れ出た蝋燭のように燃えつきて生きるより、戦って死ぬ方がずっとふさわしいのだ」
“No! Tanis muttered, his hand clenching his sword. “No--“
「ちがう!」剣の柄をぐっと握りしめ、タニスはつぶやいた。「ちがう――」
Dalamar’s fingers closed over his wrist. “She never loved you, Tanis,” he said coldly.
ダラマールの指がタニスの手首をそっとつかんだ。「キティアラはあなたを愛してなどいませんでしたよ、タニス」冷ややかに、黒エルフは言った。
“She used you to the end, Half-Elven. Even now, she reaches from beyond, hoping you will save her.”
「最後までキティアラはあなたを利用したのです、ハーフ・エルフどの。いまこのときでさえも、彼岸から手をのばして、あなたが救ってくれることを願っているのですよ」
それでもまだ、タニスはためらっていた。心の中に、恐怖に満ちたキティアラの顔が焼きついている。その顔が燃え、炎の舌がなめた……
“You have life, Half-Elven. You have much to live for.”
「そなたには生命があるではないか、ハーフ・エルフのタニスよ。そなたには生きる目的がたくさんある」
“I know, because all that you have was once mine. I cast it away, choosing to live in darkness instead of light.”
「わたしにはわかっている。なぜなら、そなたの持てるものすべてが、かつてはわたしのものだったからだ。わたしはそれを投げ捨て、光ではなく闇の中で生きることを選んだ」
“Will you follow me? Will you throw all you have aside for one who chose, long ago, to walk the paths of night?”
「そなたもわたしに続くというのか――ずっと昔に、夜の小道を歩くことを選んだ者のために?」
I have the world. Tanis heard his own words. Laurana’s face smiled upon him.
(おれには世界がある)タニス自身の声がした。ローラナの顔が微笑みかける。
Slowly, Tanis withdraw his hand from his sword.
ゆっくりと、タニスは剣から手を離した。
“They are gone,” Dalamar’s hand released his wrist. “And so is Caramon.”
「行ってしまいました」ダラマールの手がタニスの手首から離れた。「キャラモンと同じように」
A hollow voice echoed. Will you throw all you have aside for one who chose, long ago, to walk the paths of night?
うつろな声がこだました。(持てるものすべてをなげうつというのか――ずっと昔に、夜の小道を歩くことを選んだ者のために?)
***
(あの男を寄せつけないで!)
キティアラ様に好印象を持っていなかった初読時には、この期に及んで何を言っているのか、としか思っていなかった台詞です。しかし、年を経て彼女の魅力を知り、他の登場人物についてもより深く考察し、さらに原文の表現も噛み締めながら読んできて、ふと感じました。
どこかで聞いたことがある。何度も、他の場所、他の誰か――ほかでもないかれの声で。
(でも、キャラモンは起きていてくれる?ぼくの夢を守っていてよ)
“Keep them away. Don’t let them get me.”
「悪い夢が近づかないように。悪い夢にぼくをつかまえさせないでね」
“Don’t let him take me! Tanis, no! Keep him away!”
「あいつにわたしをわたさないで! だめ、タニス! あいつを寄せつけないで!」
日本語の話し言葉は性別や年齢(特にレイストリンはキャラモンに対しては口調が幼くなるとの指摘あり)によってさまざまな表現を取るのでわかりませんでしたが、原文ではほぼ同じだったんです。同じことをこの姉弟は請うているのです。かつてネラーカの地下で、ほぼ同時に、”I can (could) kill you”, "Remember"と告げたときのように、その同じ相手に向かって。
どこまでそっくりなのでしょうかこの二人は。ほとんど恐怖を表すことのなかった彼女のこの叫びが、もう、怯えた子供のようにしか聞こえません。
しかし、請われた相手の選択は違いました。
Will you throw all you have aside for one who chose, long ago, to walk the paths of night?
(持てるものすべてをなげうつというのか――ずっと昔に、夜の小道を歩くことを選んだ者のために?)
キャラモンはそれを選びました。かれだってティカを本当に愛していたのに。そうしなければ世界が(ティカも含めて)死に絶えてしまうという責任もあったとはいえ。
タニスは選びませんでした。もし選んでいたら、確実にかれはソス卿に殺されていたでしょう。しかし、死してもキティアラ様の魂を守ることはできたはずなのです。「おれは神々に一つ貸しがある」のでしたね?いまだ未清算どころか、先日一つ増えてもいます。神殿で、エリスタンの部屋に入れるように口を利いてあげた時に。
それでもかれはそうすることを選びませんでした。
タニスが誰を愛そうが、キティアラ様の魂を見捨てて生きる道を選ぼうが、誰にも文句を言う権利はありません。ただ、思い出すがいいですよ。折にふれて、何度もなんども。かつて彼女が予言したように、夜のしじまに蘇る言葉を、指に巻きつく黒髪を、あの拗ねた笑みとそして恐怖の表情を。
***
さて明日から第十章です。富士見文庫で17ページ、WoCペーパーバックで10ページ。
全文いきます。
6回かけます。馬鹿ですか自分。ワンドロ・ワンライ企画のネタも用意しなくてはね〜。
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