There was no smile of elation on Kitiara’s face. Rather, there was a look of fear, for she saw that the stroke that should have killed had missed.
伝説6巻p110
キティアラの顔に浮かんでいるのは意気揚々とした笑みではなかった。むしろ恐怖めいた表情だった。なぜなら、殺すつもりだった一撃が相手をしとめそこねたからだ。
Why? she asked herself in fury. She had slain a hundred men that way! Why should she miss now?
なぜ? 憤怒に駆られて、キティアラは自問した。これまでこういうふうにして百人もの男を殺してきたではないか! なぜいま、しそんじたりするのだ?
***
なぜ?技量の問題でないことだけは確かです。ダラマールは戦士ではないし、このときまで油断しきっていたのですから。
Like a cat, Kitiara twisted to her feet, her eyes burning with battle rage and the almost sexual lust that consumed her when fighting.
キティアラは猫のように身をよじらせて立ちあがった。目は戦いへの渇望に燃えあがっている。戦いのさなかにありながら、彼女はさながら性的な欲望に焦がされているかのようだった。
Dalamar had seen that look in someone’s eyes before--in Raistlin’s, when he was lost in the ecstasy of his magic.
それと同じ表情を、かつてダラマールはある人物の目に見たことがあった――レイストリン、魔法の愉悦にわれを忘れてひたっていたときのレイストリンの目だ。
“You have been deceived, Kitiara,”
“By you!”
「あなたはだまされているんですよ、キティアラ」
「おまえにな!」
“Why do you suppose you found Palanthas fortified?“
「なぜパランサスが防御をかためていたと思います?」
“Soth told me your plans!”
「ソス卿が教えてくれたんです! 」
“”’When Raistlin comes through the Portal, drawing the Dark Queen after him, Kitiara will be here to greet him like a loving sister’”
「『レイストリンが<扉>から<暗黒の女王>を引きずり出したとき、キティアラはその場にいて、忠実な姉という顔をして弟を迎えようとしているのだ!』と言ってね」
“Why would Soth betray me to you, dark elf?”
「なぜソスがわたしを裏切っておまえのほうにつくというのだ、黒エルフよ?」
“Because he wants you Kitiara,” Dalamar said softly. “He wants you the only way he can have you....”
「それはソス卿があなたをほしがっているからですよ、キティアラ」ダラマールは柔らかな声で言った。「ソス卿は、かれにできる唯一の方法であなたを手に入れようとしているのです……」
A cold sliver of terror pierced Kitiara to her very soul.
冷たい恐怖のかけらがキティアラを魂の底まで貫いた。
Poison. Lord Soth. She couldn’t think. Glancing up dizzily, she saw Dalamar smile.
Angrily, she turned from him to conceal her emotions, to get hold of herself.
毒。ソス卿。考えることができない。ふらふらする頭で目をあげると、ダラマールがにんまりと微笑むのが見えた。
怒りを覚え、キティアラは顔をそむけて感情を隠そうとした。
Was it true, she wondered, about Lord Soth? If it were, did it matter? Kitiara found the thought rather amusing.
ソス卿の話は本当だろうか? キティアラは考えた。もし本当だとして、それは重要なことだろうか? いまキティアラには、その考えをむしろ愉しめる余裕が生まれていた。
Men had done more than that to gain her. She was still free. She would deal with Soth later.
これまで男たちは、彼女を手に入れるためにさまざまな手練手管を使ってきた。だがまだ彼女は自由の身だ。ソスのことはあとでなんとかあしらおう。
What Dalamar said about Raistlin intrigued her more. Could he, perhaps win?
それより彼女は、レイストリンについてのダラマールの発言のほうに興味をそそられていた。もしかしたら、かれが勝つ見込みはあるのだろうか?
“I was useful to you once, wasn’t I, Dark Majesty?”
「以前、わたしはあなたのお役にたったではありませんか、<暗黒の女王陛下>よ?」
“but when you are strong, what place will there be for me this world? None!”
「あなたの力が強大になったとき、あなたはわたしのためにこの世界のどこかを与えてくださるのですか? いえ、そうではないはず!」
“Because you hate me and you fear me even as I hate and fear you.”
「なぜなら、あなたはわたしを憎み、恐れているからです。わたしがあなたを憎み、恐れているのと同じように」
“You belong to your Shalafi body and soul! You’re the one who means to help, not hinder, him when he comes through the Portal!”
「おまえは身も心もおまえのシャラーフィさまのものだ! おまえはレイストリンが<扉>から出てきたとき、邪魔ではなく手助けをするつもりでいるのだろう」
“No, dear lover. I do not trust you! Dare not trust you!”
「そうとも、愛しい恋人よ! わたしはおまえの言葉なぞ信じはしないぞ! 断じて信じはしない!」
He had seen her face pale when he mentioned Soth, her eyes dilate for an instant with fear. Surely she must realize she had been betrayed.
ソス卿の話をしたとき、相手の顔がさっと青ざめたのにダラマールは気づいていた。一瞬彼女の目が恐怖で大きく見開かれたのに。きっと裏切られたと気づいたのにちがいない。
Not that it mattered, not now. He did not trust her, dare not trust her....
だが、そんなことは問題ではない、いまは。キティアラを信じはしない。断じて信じはしない……
Her sword grasped in both hands, she she wielded it with all her strength. The blow would have severed Dalamar’s head from his neck, had he not twisted body to use the wand.
両手で剣を握り、渾身の力を込めて、彼女は剣をふるった。その一撃でダラマールの頭は首からふっとぶはずだった。黒エルフが杖を使うため、身体をよじっていなければ。
Lightning forked, its sizzling blast striking Kitiara in the chest, knocking her writhing body backward, slamming her to the floor.
枝わかれした電光がほとばしり、灼熱の電光がキティアラの胸を打ちすえた。キティアラの身体はもだえながらうしろに吹き飛ばされ、床に激しく打ちつけられた。
***
「愛は勝たねばならない」と老人は言いました。しかし、この抜き差しならない愛憎の場で、いったいどの愛が勝っていれば良かったというのでしょうか。
キティアラが、ダラマールがお互いを信じなかったのが悪い?否。
“The ones we love most are those we trust least.”
「最愛の相手を最も疑う性」な人たちですよ。互いへ向けた”Dare not trust”「断じて信じはしない」の激しさ、狂おしさ、哀しさ。
むしろ愛さなければ、最初に合意を得たときのように、相手が裏切るだろうと信じていたままであればまだ、ソス卿の讒言にも「それは想定の範囲内だ」と合理的な対処がとれたでしょうに。自分自身の手にかけるために、わざわざ正面から<塔>に斬り込むこともなかったでしょうに。
ダラマールのレイストリンに対する愛憎――キティアラ様はしっかり見極めていましたね――が仇をなしましたか?
“You belong to your Shalafi body and soul!”
「おまえは身も心もおまえのシャラーフィさまのものだ、愛しい恋人よ!」
その筋の人が喜びそうな台詞ですね、というのはおいといて。レイストリンと異父姉のキティアラ様とは、双子であるキャラモンとよりもずっと似ています。野心、力への意志、着々と目的を達成していく狡猾さ、胆力、そして残忍さ。それらゆえに許せないのでしょうか。それらこそが、ダラマールがこの姉弟にがんじがらめに魅了されてしまった大きな要因であることが(レイストリンの魔法の知識とか、キティアラ様の女性としての魅力はまた別として)。
<暗黒の女王>への憎悪は、これまたレイストリン同様、母親との関係が影響しているのでしょう。中身は全く違っても、同じ笑み、同じ魅力を持っていた母親を彼女は嫉妬し憎んでいました。もし母親と愛しあえていたら、せめて信じることができていたなら……いや、<暗黒の女王>は信じるに値する相手ではありませんでしたね。レイストリンの後を追って出てきた女王に加勢するという選択もありませんでした。
唯一目的のものを手にいれたソス卿の妄執、執着。こんなものは愛ではありませんからノーカウントです。
そしてタニスちゃん。の出番はまだ先ですが。あなたもまたレイストリンと同じことをしていますね。罪の意識がない分、よりたちが悪いと言えましょうか。
キティアラ様考察は次回に続きます。
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