2016年6月27日月曜日

伝説4巻p188〜《慈悲》

WAR OF THE TWINS p326
“Paladine...will...not...heal...me!”
“Leave me! let me die!”

伝説4巻p188
「パラダインは……ぼくを……癒しは……しない!」
「放っておいてくれ! 死なせてくれ!」

The mask of wisdom and intelligence had been stripped away, revealing the splintered lines of pride, ambition, avarice, and unfeeling cruelty beneath.

 知恵と聡明さに彩られたうわべはすっかり剥ぎとられてしまい、その下に潜んでいた自尊心や野心、強欲さや血も涙もない冷酷さがあらわれ、その輪郭がむきだしになっている。

It was as if Caramon, seeing a face he had known always, were seeing his twin for the first time.

 いつものよく知った顔を見ていたキャラモンは、まるではじめて双子の弟を見たような気がした。

“No! End it! I have failed. The gods are laughing. I can’t...bear...”

「だめだ! 終わらせてくれ! ぼくは失敗したんだ。神々が笑っている。ぼくには……耐えられない……」

Caramon stared at him. Suddenly, irrationally, anger took hold of the big man--anger that rose from years of sarcastic gibes and thankless servitude.

 キャラモンは弟を見つめた。不意に、理屈とは無関係に、大男は怒りにつかまれた――いやみたっぷりの愚弄と報われない奉仕に明け暮れた長年のあいだに培われた怒り。

Anger that had been friends die because of this man. Anger that had seen himself nearly destroyed. Anger that had seen love devoured, love denied. Reaching out his hand, Caramon grasped hold of the black robes and jerked his brother’s head up off the pillow.

 この男のために何人もの友が死ぬのを見てきた怒り。自分自身も殺されそうになるのを見てきた怒り。愛が滅ぼされ、拒まれるのを見てきた怒り。キャラモンはぐっと手をのばして黒いローブをつかみ、弟の頭をぐいと枕から引き起こした。

“No, by the gods,” Caramon shouted with a voice that literally shook with rage. “No, you will not die! Do you hear me?”

「神々にかけて、いやだ」文字どおり怒りに震える声で叫ぶ。「おまえを死なせてはやらんぞ! 聞こえるか?」

“You will not die, my brother! All your life, you have lived only for yourself. Now, even in your death, you seek the easy way out--for you!”

「おまえを死なせてはやらんぞ、弟よ! これまでずっと、おまえは自分のためだけに生きてきた。いま、死の間際になってもまだ、おまえは安易な出口を探している――自分のためにな!」

Raistlin looked at Caramon and, despite his pain, a gruesome parody of a smile touched his lips. It almost seemed he might have laughed, but a bubble of blood burst in his mouth instead.

 レイストリンはキャラモンを見た。ひどい苦痛に苦しんでいるというのに唇にぞっとするような笑みめいたものが浮かんだ。笑ったようにも見えたが、口から噴きだしたのは血の泡だった。

“But, listen to me, Raistlin or Fistandantilus or whoever you are--if it is Paladine’s will that you die before you can commit greater harm in this world, then so be it.”

「だがいいか、レイストリンだかフィスタンダンティラスだか知らんが――もし、おまえがこの世に、これ以上の災厄をもたらす前に死なせようというのがパラダインのご意志なら、それでいい」

“I’ll accept that fate and so will Crysania. But if it is his will that you livem we’ll accept that, too--and so will you!”

「おれはその運命を受けいれるし、クリサニアもそうするだろう。だがもし、おまえを生かしておくというのがパラダインの意志なら、おれたちはそれもまた受けいれる――だからおまえも受けいれろ!」

***
“My brother in dying. Do what you will to me.”
「おれの弟は死にかけている。おれを好きにするがいい」
“Promise me, Raist, you’ll take this stuff if I’m…not there….”
「約束してくれ、レイスト、おれが……おれがいなければ、おまえも、その薬を飲むって……」
自分の人生を送る勇気がなくて、レイストリンの人生--life--生命にしがみついていた以前のキャラモンだったら、ここで望み通りレイストリンを楽にしてやって、それから自分も命を絶っていたんではないかと思います。そしてレイストリンの真の貌を見ることもできなかったのではないかと。


“Let me heal you.”
“Get...away!...”
“Let me heal you!”

「わたしに癒させてください」
「離して……くれ!」
「わたしに癒させてください!」

Very well. Let the god laugh. He’s earned it, after all,

Shutting his eyes, shutting them tightly against the light, Raistlin waited for the laughter--
--and saw, suddenly, the face of the god.

 いいだろう。パラダインが笑うなら笑わせておこう。結局、勝つのは向こうなのだから。
 かたく目を閉じてしっかりと光を締めだし、レイストリンは笑い声を待ち受けた――
 ――と、突然パラダインの顔が見えた。

“This night, a greater victory is mine. Don’t you see? This is the answer to my prayers.”
Looking at her peaceful, serene beauty, Caramon felt tears come to his eyes.

「今夜はもっと大きな勝利を得ましたわ。おわかりになりません? これはわたしの祈りへの返事なのです」
 穏やかさと静けさに満ちた美しい顔を見て、キャラモンは目に涙があふれてくるのを感じた。

“This is your answer, too, Caramon,”
“This is the sign from the gods we have both sought.”

「これはあなたが出した答えでもあるのですよ、キャラモン」
「これはわたしたち二人ともが探し求めていた神々からの合図なのです」

“Raistlin was meant to live. He was meant to do this great deed. Together, he and I and you, if you will join us, will fight and overcome evil as I have fought and overcome death this night!”

「レイストリンは生きることになっていたのです。偉大な行ないをするように。わたしとレイストリンとあなたと一丸になって――もしあなたが加わってくださるならですけれど――邪悪と闘い、打ち勝つことになっているのですわ。今宵死と戦って打ち勝ったように!」

I don’t want to fight evil, he thought wearily. I just want to go home. Is that too much to ask?

 おれは邪悪と闘ったりしたくない。力なくそう考える。おれはただ家に帰りたいだけなんだ。それがそんなに大それた望みなのか?

But as the darkness closed mercifully over him, he remembered Crysania’s words--“Thank Paladine for your brother’s life.”

 だが情け深い闇に包みこまれていきながら、キャラモンはクリサニアの言葉を思い出していた――「あなたの弟さんの生命を助けてくれたパラダインのお慈悲に感謝してください」

The memory of Raistlin’s stricken face floated before Caramon, and the prayer stuck in his throat.

 目の前にレイストリンの硬直した顔が浮かび、祈りが口にのぼってきた。

2 件のコメント:

  1. ついに弟の願いを否定したキャラモン、戦記の頃からの見事な成長ぶりはうれしいけど、当時の鈍牛兄さんが懐かしくもあります。
    キャラモンに死の願いを拒絶された後のレイストリンの場面も見てみたいです。

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  2. ついにここまで来ました。鈍牛スマイルはまたどこかで見られるでしょうか…

    リクエストお応えしました^^

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