2016年6月12日日曜日

伝説3巻p363〜《炎》

WAR OF THE TWINS p208
“I’ll go bring him out and put him with the others,”
“Then I’ll fill in the grave--“

伝説3巻p363
「あの男を運びだしてほかの者たちと一緒に葬ろう」
「それから、墓をちゃんと埋めて――」

“No, my brother,” Raistlin said. “No. This sight will not be hidden in the ground.” He cast back his hood, letting the rain wash over his face as he lifted his gaze to the clouds.

「いや、兄さん」レイストリンが言った。「いいんだ。この光景は地中に埋めて隠さないでおこう」魔法使いはフードをかなぐり捨て、雨が顔を洗うにまかせて垂れ込めた雲をじっと見あげた。

“This sight will flare in the eyes of the gods! The smoke of their destruction will rise to heaven! The sound will resound in their ears!”

「この光景は神々の目にかっと焼きつくことだろう!この者たちの死骸を燃やした煙は天にまで昇っていくだろう!その音は神々の耳に鳴り響くことだろう!」

Caramon, startled at this unusual outburst, turned to look at his twin, Raistlin’s thin face was nearly as gaunt and pale as the corpse’s inside the small house, his voice tense with anger.

 レイストリンのいつにない激昂ぶりに、キャラモンはびっくりして振り返った。その痩せこけた顔は、この小さな家のなかの亡骸と変わらないくらいにげっそりとし、青白かった。声は怒りでこわばっている。

Rastlin’s eyes closed. Lifting his face to the heavens, he raised his arms, palms outward, toward the lowering skies. his lips moved, but--for a moment--they could not hear him.

 レイストリンは目を閉じた。顔を天に向け、てのひらを上にして両腕を広げ、低く垂れ込めた空に向けてさしのべる。唇が動いていた。しばらくのあいだ、二人にはその声が聞こえなかった。

Then, though he did not seem to raise his voice, each could begin to make out words--the spidery language of magic.

 が、やがて、レイストリンが声を大きくしているふうでもないのに、一語一語が聞きとれるようになってきた――蜘蛛の巣のように入り組んだ魔法の言語だ。

He repeated the same words over and over, his soft voice rising and falling in a chant. the words never changed, but the way he spoke them, the inflection of each, varied every time he repeated the phrase.

 魔法使いは同じ言葉を何度も何度もくりかえした。やわらかな声が詠唱にのって上がったり下がったりする。言葉は変わることがなかったが、文句をくりかえすごとにその言い方、抑揚がすべてちがっていた。

Raistlin lifted his hands higher, his voice rising ever so slightly. He paused, then he spoke each word in the chant slowly, firmly. The winds rose, the ground heaved. Caramon had the wild impression that the world was rushing in upon his brother, and he braced his feet, fearful that he, too, would be sucked into Raistlin’s dark vortex.

 レイストリンは両手をさらに高くさしのべ、声をほんのわずか高くした。風が起こり、地面がうねった。全世界が弟に向かって押し寄せようとしている猛々しい印象を、キャラモンは感じた。大男は足をふんばった。自分もまた、レイストリンの黒い渦のなかにのみこまれそうな不安を覚えたからだ。

Raistlin’s fingers stabbed toward the gray, boiling heavens. the energy that he had drawn from ground and air surged through him. Silver lightning flashed from his fingers, striking the clouds.

 レイストリンの指が、灰色にたぎる天を突き刺した。大地と大気から引き寄せられたエネルギーがかれのなかに充満した。指先から銀色の稲妻が迸り、雲を貫いた。

Brilliant, jagged light forked down in answer, touching the small house where the body of the young cleric lay. With a shattering explosion, a ball of blue-white lame engulfed the building.

 それに答えるかのように、まばゆく輝くぎざぎざした光が突き刺すように降りてきて、若い僧侶の亡骸が横たわるあの小さな家に触れた。はじけるような爆発音が轟き、青白い火の玉が家をすっぽりとのみこんだ。

Again, Raistlin spoke and again the silver lightning shot from his fingers. Again another streak of light answered, striking the mage! this time it was Raistlin who was engulfed in red-green flame.

 もう一度、レイストリンは呪文を唱え、もう一度指から銀色の稲妻が迸った。もう一度、それに答えて光の矢が降りてきて、魔法使いを打った!今度は、レイストリンが赤緑の炎にのみこまれた。

Standing amidst the blaze, Raistlin lifted his thin arms higher, and the black robes blew around him as though he were in the center of a violent wind storm.

 レイストリンは火炎のただ中に立ち、ほっそりした両腕を高々とさしあげていた。黒いローブが、まるで哮り狂う嵐の中心にいるかのように激しくはためいていた。

he spoke again. Fiery fingers of flame spread out from him, lighting the darkness, ran through the wet grass, dancing on top of the water as though it were covered with oil. Raistlin stood in the center, the hub of a vast, spoked wheel of flame.

 またもや、レイストリンは呪文を唱えた。炎の指がかれを中心に四方八方に広がってゆき、闇を照らし、濡れそぼった草の上を走っていく。まるで水面が油で覆われているかのように、それは草の上で躍りあがっていた。その中心に立つレイストリンは、さながら、巨大な炎の車輪の軸頭のようだ。

Traveling through the streets, the fire reached the buildings and ignited them with one bursting explosion after another.

 炎は通りという通りを走り抜け、家々に触れて火をつけた。次から次へと爆発の音が起こった。

Purple, red, blue, and green, the magical fire blazed upward, lighting the heavens, taking the place of the cloud-shrouded sun.

 紫、赤、青、緑。魔法の炎が空に向かって燃えあがり、雲に隠されてしまった太陽のかわりに天を明るく照らした。

Raistlin spoke again, one last time. With a burst of pure, white light, fire leaped down from the heavens, consuming the bodies in the mass grave.

 レイストリンはもう一度呪文を唱えた。それが最後だった。混じり気のない白色光が炸裂し、天からくだってきた火は巨大な墓穴の死骸たちをのみこんだ。

***

 蜘蛛の巣のように入り組んだ魔法の詠唱、村を焼き尽くす怒りの炎。『ドラゴンランス』全編を通じて、二番目に華々しく印象的な場面だと思っています(一番は意外なことに、レイストリンの場面ではありません。総合点でいったらもちろんレイストリンの圧勝なんですが。ご紹介するのはまだ遠い先の話です)。

『そなたの弟は神になろうとしている』

 初出時にはあまりにも大それていて、なんだか人間離れしていて、理解の範疇を超えていた望みでした。それが、切れば血が出る生身の人間の思いとして鮮やかに叫ばれたのがここです。

“This sight will flare in the eyes of the gods! The smoke of their destruction will rise to heaven! The sound will resound in their ears!”

「この光景は神々の目にかっと焼きつくことだろう!この者たちの死骸を燃やした煙は天にまで昇っていくだろう!その音は神々の耳に鳴り響くことだろう!」

《奈落》の暗黒の女王のみならず、天(heaven)にましますすべての神々に対する怒りに満ちた挑戦、宣戦布告。己らの無力さをしかと嚙みしめろとばかりに。大気が、大地が、世界の力の全てがかれの元に集い、魔法の炎は太陽に代わって曇天を照らします。

 かれには本当にそれができたのです。神々に取ってかわることが。ただ、最後にそうしないことを選んだだけで。

 ついでながら、二年前の全編再読時にあげた感想文でも曝しておきましょう。今でもこの気持ちは変わりません。

http://bookmeter.com/b/482914145X

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