2016年6月4日土曜日

伝説3巻p289〜《血潮》

WAR OF THE TWINS p165
Raistlin did not speak. His gaze followed the path of the leaves, watching as each clung to the branch with its last, feeble strength, watching as the ruthless wind tore it from its hold,

伝説3巻p289
 レイストリンは口をきかなかった。じっと、枯れ葉のたどる運命を目で追っていた。最後の弱々しい力をふりしぼって枝にしがみついている葉を見つめ、情け容赦のない風がそれをもぎとるさまを見つめる。

watching as it swirled in the air to fall into the water, watching as it was carried off into oblivion by the swift-running stream.

 そして葉が宙に舞い、水面に落ちてゆくさまを、さらさらと流れてゆく水に運ばれ消えさってゆくさまを見る。

The sun was warm on his black robes, her touch was warner than the sun. But, somewhere, some part of his mind was coldly balancing, calculating--

 黒ローブにあたる陽ざしは暖かかったが、クリサニアの手はそれ以上に暖かかった。だが、かれのなかのどこかで、頭のどこかで、ひどく冷静な計算が働いていた――

--tell her? What will I gain? More than if I kept silent?
Yes...draw her nearer, enfold her, wrap her up, accustom her to the darkness....

――うちあけてよいのだろうか? それでどういう得になる? 黙っておくのとどっちが得だ?
 よし――彼女を引き寄せ、抱きしめて包みこみ、闇に慣らすのだ……

“Legend tells us that Fistandantilus undertook what some call the Dwarfgate Wars so that he could claim the mountain kingdom of Thorbardin for his own.”

「伝説では、フィスタンダンティラスは<ドワーフゲイト戦争>と呼ばれるものを引き起こしたと言われています。トルバルディンの山岳王国をわがものにしようとした、と」

“Fistandantilus came here to do the very same thing I came here to do!”

The only way he could reach it was to start a war so that he could get close enough to gain access to it! And, so, history repeats itself.”


「フィスタンダンティラスはここへ、ぼくがしにきたのと同じことをしにきたんだ!」

「フィスタンダンティラスが<扉>に到達するには、戦をはじめるしかなかった。<扉>に出入りできるところまで近づくために! そして、歴史はくりかえすんだ」

For I must do what he did....I am doing what he did!”

「ぼくはフィスタンダンティラスがしたとおりのことをしてしまうだろう……かれがしたとおりのことを今しているのだから!」

“What caused the end of the Dwarfgate Wars?”

「思い出してごらんなさい! <ドワーフゲイト戦争>の最後に何があったか!」

“Thousands died and so did--“
So did Fistandantilus!”

「何千人もが死に、そして――」
「そしてフィスタンダンティラスも死んだ!」

“Yes,” Raistlin replied, unconsciously letting his fingers trace along her from jaw, cup her chin in his hand.

「そうです」レイストリンは答えた。自分ではそうと意識せずに、クリサニアのこわばった顎を指でなぞり、顎をすっぽりと手で包み込む。

This must not happen! he reprimanded himself. It will interfere with my plans.... He startled to rise, but Crysania caught hold of his hand with both hers and rested her cheek in his palm.

 こんなことをしていてはいけない! レイストリンは自分を叱責した。計画に支障をきたしてしまう……。かれは立ちあがろうとした。だが、クリサニアは両手でしっかりとかれの手を握り、そのてのひらに頬を押しつけた。

“No,” she said softly, her gray eyes looking up at him, shining in the bright sunlight that filtered through the leaves, holding him with her steadfast gaze,

「いいえ」クリサニアは静かに言った。灰色の瞳がレイストリンを見あげる。木の葉ごしに漏れてくるまばゆい日光を浴びて光るその目は、まっすぐな視線でレイストリンを射た。

“we will alter time, you and I! You are more powerful than Fistandantilus. I am stronger in my faith than Denubis!”

「二人で時を変えるのです。あなたとわたしとで! あなたはフィスタンダンティラス以上に力があります。わたしはデヌビス以上に強い信仰をもっています!」

Caught up in the passion of her words, Crysania’s eyes deepened to blue, her skin, cool on Raistlin’s hand, flushed a delicate pink. Beneath his fingers, he could feel the lifeblood pulse in her neck.

 言葉にこもる情熱でクリサニアの目は濃い青色に変わり、レイストリンの手を握るひんやりとした手はほんのりと桃色に染まっていた。レイストリンの指に、彼女のうなじで脈打つ熱い血が感じられた。

He felt her tenderness, her softness, her smoothness...and suddenly he was down on his knees beside her. She was in his arms.

 彼女のやさしさ、やわらかさ、なめらかさ……不意に、かれはクリサニアのかたわらにひざまずいていた。クリサニアを抱きしめていた。

And then, the shadow of a face appeared in his mind: a goddess--dark-haired, dark-eyed, exultant, victorious, laughing....

 そのとき、脳裡にひとつの顔が浮かんだ――黒い髪と黒い目をもち、勝ち誇ったように哄笑している女神……

“No!”

「やめろ!」

***

 イスタルで<暗黒の女王>が夢でレイストリンを誘惑した際、もう少しのところでクリサニアの姿をとったことがレイストリンの危機感を目覚めさせ、失敗に終わっています。狡猾なくせに、肝心なところで残念なタキシス。(それとも、クリサニアの姿を見出したのはレイストリンの意志の力だったのでしょうか?)
 その記憶を裏返したように、クリサニアの中に女王の勝利の哄笑を感じて恐怖するレイストリン。女王様またもや裏目に出ましたね。
 しかし、想像せずにはいられません。もしこの中断がなかったなら。あなたは兄が思っている以上に人間らしく、また自負しているほど自分の、人間のことを理解していないのですよ、大魔法使い。

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