2016年6月1日水曜日

伝説3巻p259〜《老王》

WAR OF THE TWINS p147
“What would it have hurt to negotiate, Thane?”

伝説3巻p259
「どうして協議にすらかけなかったのです、殿?」

“Kharas,” Duncan said, putting his hand on his friend’s arm affectionately, “tell me--is there treasure beneath the mountain? Have we robbed our kinsmen? Do we raid their lands, or the lands of the humans, for that matter? Are their accusations just?”

「カーラス」ダンカンは愛情をこめて、友の腕に手をかけた。「答えてくれ――この山の地下には宝があるのか? わしらは同胞に盗みを働いたのか? わしらはかれらの土地に、また人間どもの土地に侵入したりするか?かれらの非難は正当なものなのか?」

“No,”

「ちがいます」

“You have seen the harvest. You know that what little money remains in the treasury we will spend to lay in what we can for this winter.”

「取り入れを見ただろう。この冬に備えていろいろと仕入れなければならないというのに、宝物倉には金がほとんどないということも知っておろう」

“Tell them this!”
“Tell them the truth! They are not monsters! They are our kinsmen, they will understand--“

「それをかれらにおっしゃってください!」
「本当のことをうちあけるのです! かれらは怪物ではありません! われわれの同胞なのです。きっとわかってくれます――」

“But they would not believe us. They would not believe their own eyes. Why? Because they want to believe otherwise!”

「だが、向こうはわしらの言うことを信じはすまいよ。自分の目すら信じはしないだろう。なぜかって? そりゃ、かれらはそうでないと信じたがっているからだよ!」

“They want to believe, my friend. More than that, they have to believe. It is their only hope for survival.”

「やつらは信じたがっているのだ、友よ。それだけじゃない、信じなければならないのだ。それが生き残るための唯一の頼みの綱なのだ」

The old king’s eyes dimmed for a moment, and Kharas--staring at him in amazement--realized then that his anger had been all feigned, all show.

 老王の目は一瞬曇った。カーラスは驚きの目で王を見つめていた。先ほどの怒りはすべて偽りの、見せかけだけのものだったことをさとったのだ。

“Now they can return to their wives and their hungry children and they can say, ’We will fight the usurpers! When we win, you will have full bellies again.’ And that will help them forget their hunger, for a while.”

「かれらは妻や飢えた子のもとに帰ってこう言うことができる。『わしらは強奪者どもと戦うぞ! 勝利を得たら、もう一度満腹になれるんだ』と。そうすればしばらくのあいだ、飢えを忘れることができるだろう」

“Better we all starve to death, than die fighting each other!”

「互いに戦って死ぬよりも、みなで飢え死にする方がましです!」

“Noble words, my friend,” Duncan answered. The beating of drums thrummed through the room and deep voices raised in stirring war chants, older than the rocks of Pax Tharkas, older--perhaps--than the bones of the world.

「気高い言葉だ、友よ」ダンカンは答えた。太鼓の響きがこの室内まで響き、低い声は高まって騒がしい戦歌になった。パックス・タルカスの岩々よりも古く――ことによると――この世界の骨組みよりも古い歌に。

“You can’t eat noble words, though, Kharas.”

「だが、気高い言葉は腹の足しにはならんのだ、カーラス」

“What about the children who will cry when their father leaves, never to return?” Kharas asked sternly.

「では、父親が二度と帰らぬ旅路に出ていくときに泣く子どもらはどうなるのです?」カーラスは厳しく問うた。

“They will cry for a month,” he said simply, “then they will eat his share of the food. And wouldn’t he want it that way?”

「ひと月ぐらいは泣くだろう」そっけなく言う。「それから、自分のくいぶちを食べるだろう。そして、それが父親の望みなのではないか?」

***

 第一章「パックス・タルカス――」に三回かけました。後悔はしていない。ドワーフやエルフたちの歴史、慣習、後世の英雄たちの系譜…もっと紹介したいシーンはあったんですが泣く泣く削りました。

 老王の現実主義と、若き英雄の理想主義。王は若者の気高さにどれだけ救われていたことだろう。

 唐突ですが、作業中にBGMを聴く習慣はほとんどありません。基本的に無音を好みます。窓の外の物音や小鳥の声がせいぜい。音楽を聴くときは他に何もせず、全身を耳にして音楽に集中します。

 しかし今回のエントリ部分を読み込み書き取りながら、以下の二曲を繰り返していました。

FINAL FANTASY XIV BEFORE THE FALLより
「始祖たる幻竜」祖堅正慶
「Answers- Reprise」植松伸夫

 ひとの寿命をはるかに超える、千年以上に渡って積み重ねられてきた遺恨のイメージです。なぜ戦うのか、という問いは口から発することなく、重く舌を縛るばかりです。

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