2016年6月5日日曜日

伝説3巻p298〜《血肉》

WAR OF THE TWINS p169
“I should kill you, you damned bastard!”

伝説3巻p298
「殺してやる、このろくでなしの畜生め!」

***

 キティアラ姉さんも、原文(4月8日《黒の女卿》)で全く同じ言葉を使ってますね。こちらの邦訳は

「おまえなぞ殺してくれるわ、この鬼子め!」

 慣用的な罵り言葉ですが、血を分けた兄弟に対して「呪われた私生児め!」てのはどうなんでしょうね。頭に血が上るあまり、本来の意味なんて気にしてませんか。


“By the gods, I will kill you this time!” Caramon said through clenched teeth, drawing his sword with a trembling hand.

「神々に誓って、今度こそおまえを殺してやる!」くいしばった歯のあいだから、キャラモンは声をしぼり出し、わなわなと震える手で剣を引き抜いた。

“Then do so,”
“and get it over with. This constant threatening becomes boring!”
There was an odd gleam in the mage’s eyes, an almost eager gleam--a gleam of invitation.

「なら、どうぞ」
「ちゃんとやりとげてくださいよ。いつもいつも脅されるだけでは飽き飽きしますからね!」
 魔法使いの目に、奇妙な光が浮かんでいた。切望しているかのようなきらめき――挑発するような光が。

“Try it!”

「やってごらんなさい!」

“General! Where are you?”

「将軍!どちらにおいでですか?」

Raistlin did not listen. He closed his eyes with a sigh. Caramon had not been allowed to kill him.

 だが、レイストリンは聞いてはいなかった。魔法使いは目を閉じて、ため息をついた。キャラモンに殺してはもらえなかったのだ。

***

「殺してくれ」という最大級の甘えがやっとレイストリンの口から出てきました。まだまだキャラモンには勝ち目がありません。手玉に取られっぱなし。


“I am coming, too, my brother,”
The archmage came out of his tent, dressed in his black traveling cloak and boots. Caramon scowled, but Garic was already respectfully helping Raistlin to mount the thin, nervous black horse the archmage favored.

「ぼくも行くんですよ、兄さん」
 長旅用の黒いマントと長靴を身につけている。キャラモンは眉をひそめた。が、ガリクは恭しく、レイストリンがいつも愛用しているほっそりした神経質そうな馬に乗るのを手伝っている。

Caramon dared not say anything in front of the men--and his brother knew it. he saw the amused glint in Raistlin’s eyes as he raised his head, the sunlight hitting their mirrored surface.

 部下の前では、キャラモンはあえて何も言わない――魔法使いはそれをよく知っていた。顔を上げたレイストリンの目に、おもしろがるような光がきらめいているのが見えた。鏡のようなその目を、陽光が射る。

“Yes, sir,” Garic said gravely, giving Caramon the Knight’s salute.

「はい、閣下」ガリクは重々しく言い、騎士流の敬礼をした。

A vivid memory of Sturm Brightblade came to Caramon’s mind, and with it days of his youth; days when he and his brother had traveled with their friends--Tanis, Flint the dwarven metalsmith, Sturm....

 キャラモンの心にスターム・ブライトブレイドの記憶が鮮やかによみがえった。それとともに、若かりし日の思い出も。弟と友人たちと一緒に旅をしていた日々――タニス、ドワーフ細工師のフリント、スターム……。

Caramon felt himself slipping into the old, easy comradeship. His anger began to melt away--it had been partly at himself, anyhow.

 キャラモンは昔ながらの気安い仲間意識が戻ってくるのを感じていた。怒りは消えかけている――何にせよ、その一部は自分自身に向けられたものだったのだ。

“I--I’m sorry...about...back there, Raist,”

「悪かった……その……さっきは、レイスト」

“I had to be rough,”

「手荒にする必要があったんですよ」

“You’re not human!”

「おまえは人間じゃない!」

To his astonishment, Raistlin sighed. the mage’s harsh, glittering eyes softened a moment. “I am more human than you realize, my brother,”

 驚いたことに、レイストリンはため息をついた。ぎらりと光る無情な目が一瞬やわらいだ。「ぼくは兄さんが思ってる以上に人間らしいんですよ」

“Then love her, man!”
“You may be a powerful wizard and she may be a holy cleric, but, underneath those robes, you’re both flesh and blood! Take her in your arms and...and....”

「それなら彼女を愛せばいいじゃないか」
「おまえは力ある魔法使いで、彼女は聖なる僧侶だ。だがその衣の下は二人とも血肉を備えた人間なんだ! 彼女を抱くんだ。そして……そして……」

 “I am incapable of love. Haven’t you realized that, yet? Oh, yes, you are right--beneath these robes I am flesh and blood, more’s the pity. Like any other man, I am capable of lust. That’s all it is...lust.”

「ぼくには人を愛することはできない。まだそれがわからないのかい? 確かに、そうだよ、兄さんの言うとおりだ――このローブの下には血肉を備えた肉体がある。だからよけいに始末が悪いのさ。ほかの男と同じように、ぼくだって欲望を抱くことはできる。しかし、しょせんそれだけ……欲望にすぎないのさ」

“You black-hearted bastard!”

「この腹黒のろくでなしめ!」

“Am I?”
“If I were, wouldn’t I just take my pleasure as I found it? I am capable of understanding and controlling myself--unlike others.”

「ぼくが?」
「本当に腹黒いろくでなしだったら、据え膳を楽しんでますよ。ぼくはちゃんと自分のことを理解して、制御することができるんです――ほかの男とはちがってね」

Somehow, his brother had managed, once again, to turn everything upside down. Suddenly he, Caramon felt consumed with guilt--a prey to animal instincts he wasn’t man enough to control, while his brother--by admitting he was incapable of love--appeared noble and self-sacrificing.

 どういうわけかまた、弟はすべてを逆転させてしまったのだ。不意にキャラモンは、自責の念に焼かれるような思いがした――自分がまるで、ちゃんと自制のきく人間ではなく、本能のままにおもむく動物みたいな気がしていた。それにひきかえ弟は――愛することは不可能だと認めることで――りっぱな献身的な人間のように思える。

***

 がんばりましたが今回も長いです。そしてこのあたりから3巻の終わりまで、どうしても紹介したい外せないシーンだらけで、何回かかるかわかりません。別に制限があるわけでもないので、我慢せずにどんどんやっちゃいますよー。

0 件のコメント:

コメントを投稿