2016年6月3日金曜日

伝説3巻p280〜《顔》

WAR OF THE TWINS p159
“I love you, Crysania,” he said softly.

“I’ve seen you with my brother. it reminds me of the way I was, in the old days”--his voice grew wistful--“you care for him so tenderly, so patiently.”

伝説3巻p280
「愛してるんだ、クリサニア」静かに、キャラモンは言った。

「あなたが弟につき添っているのを見て、おれは昔の自分を思い出した」――声が懐かしそうな響きを帯びた――「あなたはそれほどやさしく、辛抱強くレイストの世話をしてくれていた」

“What would you know of love?”

「あなたに愛のなんたるかがわかるのか?」

“What do I know of love?” Crysania repeated, her calm slipping, her gray eyes darkening in anger. “I’ll tell you what I know of love. I--“

「わたしに愛のなんたるかがわかるのか、ですって?」クリサニアはおうむ返しに言った。冷静さはふっ飛び、灰色の芽は怒りで黒ずんでいた。「愛のなんたるかを教えてあげましょう。わたしは――」

“Don’t say you love Raistlin! he doesn’t deserve your love! He’s using you, just like he used me! And he’ll throw you away when he’s finished!”

「レイストリンを愛しているなんて言わないでくれ! あいつはきみの愛に値するやつじゃない! あいつはあなたを利用してるんだ、かつておれを利用したみたいに! 用がすんだらあいつはあなたをあっさりと放り投げるんだ!」

“Pardon me,” said a soft voice, “if I am interrupting. But there is urgent news.”

「失礼するよ」やわらかな声がした。「もし邪魔をしたんだったらね。でも、急ぎの知らせがあるんだ」

Raistlin coolly regarded his brother with his mirrorlike eyes. there was no expression on his face, as there had been no expression in his voice when he spoke upon first entering.

 レイストリンは鏡のような目で冷ややかに兄を見つめている。はいってきたときにしゃべった声に何の感情もあらわれていなかったのと同じく、その顔は無表情だった。

But Caramon had seen, for a split second, the eyes crack. The glimpse of the dark and burning jealousy inside appalled him, hitting him an almost physical blow.

 だがほんの一瞬、キャラモンは弟の目にわずかな隙を見てとった。燃えるような嫉妬の炎をかいま見て、キャラモンはぎょっとした。それはほとんど生身の一撃のように大男を襲った。

"What news?”

Casting off his hood, Raistlin stepped forward, his gaze holding his brother’s gaze, binding them together, making the resemblance between them strong. For an instant, the mage’s mask dropped.

「何の知らせだ?」

 レイストリンはフードをかなぐり捨て、前に足を踏みだした。視線が兄の視線とぶつかり、からみあって、二人は常以上に似て見えた。一瞬、魔法使いの仮面がはげおちる。

***

 5月19日《流れ》で、双子が似て見えるシチュエーションについて語りました。レイストリンが(まれに)素直になることでキャラモンに似て見えた、遠い日々。キャラモンの方がレイストリンの歪んだ思いを知った、この時代の上位魔法の塔。そしてここでは、両者ともがお互いへの嫉妬を抱いて激突するに至りました。
 仲が良い時にはあまり似て見えず、似ている時にはこうです。似た者同士は対立せずにはいられないのが世の常なんでしょうか。かつてのような仲の良さが異常だった、というのも事実ではあるのですが。


“I don’t know what else you expected,”
“It was your idea, after all.”

“’Join up with Fistandantilus and raid the mountains!’”

「おまえがほかにどんなことを予期していたかは知らんが、おまえが言いだしたことなんだぞ」

「『フィスタンダンティラス軍に入って山を襲いにいこう!』ってな」

Caramon tossed this off thoughtlessly, but its effect was startling. Raistlin went livid. He seemed to try to speak, but no intelligible sounds came from his lips, only a blood-stained froth.

 キャラモンはろくに考えもせずにこれだけ言ってのけたのだが、ぎょっとするような反応があった。レイストリンが逆上したのだ。何かしゃべろうとするが、唇から漏れるのは意味をなさない声と血の混じった泡だけだ。

Footsteps in the sand, leading me on....
Looking up, I see the scaffold, the hooded figure with its head on the block, the hooded figure of the executioner, the sharp blade of the axe glinting in the burning sun.
The axe falls, the victim’s severed head rolls on the wooden platform, the hood comes off--
 砂の上の足跡がぼくを導いてゆく……
 目を上げると断頭台が見える。フードをかぶった人影が台に頭をのせている。やはりフードをかぶった死刑執行人。焼けつくような太陽の光を浴びてぎらりと輝く斧の鋭い刃。
 斧が振り下ろされる。処刑者の首が板床にころがり落ちる。フードがはずれ――
“My head!”

「ぼくの首だ!」

The executioner, laughing, removes his hood, revealing--

“My face!”
 執行人が笑っている。みずからのフードを取る。あらわれたのは――
「ぼくの顔だ!」

“Master of Past and Present!” Raistlin laughed hollowly--bitter, mocking laughter.”

「<過去と現在の主>だと!」レイストリンはうつろな笑い声をあげた――苦い、嘲るような笑いを。

"I am Master of nothing! All this power, and I am trapped! Trapped! Following in his footsteps, knowing that every second that passes has passed before!”

「何の主でもない! これほどの力を持ちながら、ぼくは囚われているのだ! 囚われの身なのだ!あいつの足跡をたどっているのだ。一秒一秒、過去にたどったとおりの道をたどっていると知りながら」

“Who am I? I am my own executioner!”

「ぼくは誰だ? ぼくは自分を処刑する死刑執行人なんだ!」

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