Dalamar’s eyes fluttered shut, his skin was ashen. Tanis reached across Dalamar’s chest to feel for the lifebeat in the young elf’s neck. His hand had just touched the mage’s skin when there was a ringing sound.
伝説6巻p123
ダラマールの目が閉じた。肌は灰色になっている。タニスはこの若いエルフの胸から首すじへと手を移し、脈を探った。手が魔法使いの肌にふれたとき、ひゅっという音がした。
Something jarred his arm, striking the armor and bouncing off, falling to the floor with a clatter. Looking down, Tanis saw a blood-stained dagger.
何かがタニスの腕にぶつかると、鎧に当たってはねかえり、音をたてて床に落ちた。下を見ると、血まみれの短剣があった。
“Of course,” Caramon murmured. “That’s how she killed him.” He lifted the dagger in his hand. “This time, Tanis, you blocked her throw.”
「そういうことか」キャラモンがつぶやいた。「こうやってキティアラはダラマールを倒したわけだ」そして短剣をとりあげる。「今回はあんたが遮ったんだ、タニス」
Kitiara lay on her stomach, her cheek pressed against the bloody floor, her dark hair falling across her eyes. The dagger throw had taken her last energy, it seemed.
キティアラはうつ伏せになって倒れていた。血まみれの床に頬を押しつけ、黒い髪が目を隠している。短剣を投げるので最後の力を使いはたしたようだった。
But the indomitable will that carried one brother through darkness and another into light, burned still within Kitiara.
だが、キティアラの内にはまだ、兄弟の片方を闇の中に、もう片方を光の中に歩ませてきたのと同じ不屈の闘志が燃えていた。
“Tanis?” She stared at him, puzzled, confused. Where was she? Flotsam? Were they together again? Of Course! He had come back to her!
「タニス?」面食らい、動揺して、彼女はタニスを見つめた。ここはどこだろう? フロットサム? ふたたびかれと一緒になれたのだろうか? もちろんそうだ! かれはわたしのもとにもどってきたのだ!
***
フロットサム。ここでフロットサム。何故ここでフロットサム…(考察に続きます)
“Tanis!” she called in a cracked voice. “Come to me.”
「タニス!」キティアラがつぶれた声で呼んだ。「ここにきて」
his heart filled with pity, Tanis Knelt down beside her to lift her in his arms. She looked up into his face...and saw her death in his eyes. Fear shook her. She struggled to rise.
憐れみがこみあげ、タニスは彼女の横にひざまずいて両腕で抱きしめた。キティアラはかれの顔を見あげた……そして、相手の目に映った自分の死相を見てとった。彼女は恐怖にとらわれ、立ちあがろうともがいた。
“I’m...hurt,” she whispered angrily. “How...had?” Lifting her hand, she started to touch the wound.
「わたしは……傷ついている」怒ったようにささやく。「どれ……くらい?」手をあげて、傷にふれようとする。
Snatching off his cloak, Tanis wrapped it around Kitiara’s torn body. “Rest easy, Kit,” he said gently. “You’ll be all right.”
タニスはマントをむしるようにして脱ぎ、キティアラの痛々しい身体を覆った。「ゆっくりお休み、キット」やさしく告げる。「大丈夫だよ」
“You’re damn liar!” she cried, her hands clenching into fists, echoing--if she only known it--the dying Elistan.
「大嘘つき!」キティアラは叫び、こぶしを握りしめた。それは――キティアラが知っていれば――エリスタンが死の間際に言った言葉と同じだった。
“He’d killed me! That wretched elf!” She smiled, a ghastly smile. Tanis shuddered.
「あの男がわたしを殺した! あの卑劣なエルフめが!」そして、ぞっとするような笑みを浮かべた。タニスは身震いした。
Moaning, she writhed in agony and clutched at Tanis. He held her tightly. When the pain eased, she looked up at him.
キティアラは苦痛にもだえてうめき声をあげ、タニスをつかんだ。タニスは彼女をかたく抱きしめた。痛みがやわらぐと、キティアラはタニスを見あげた。
“You weakling,” she whispered in a tone that was part bitter scorn, part bitter regret, “we could have the world, you and I.”
「このいくじなし」辛辣な嘲りと苦い後悔がない混ざった声音で、ささやく。「わたしたちは世界を手に入れることだってできたのだぞ、おまえとわたしとで」
***
辛辣なbitterと苦いbitter。
“I have the world, Kitiara,” Tanis said softly, his heart torn with revulsion and sorrow.
「おれには世界がある、キティアラ」タニスは静かに言った。激しい嫌悪と悲しみで胸がはりさけそうだった。
“No!” she cried in a terror that no torture or suffering could have ever wrenched from her. “No!” Shrinking, huddling against Tanis, she whispered in a frantic, strangled voice.
「だめ!」どんな拷問や苦難をもってしても引きだすことができないほどの恐怖に駆られて、キティアラは叫んだ。「だめ!」おびえきってタニスに抱きつき、窒息しかかったようなような声で必死にささやく。
“Don’t let him take me! Tanis, no! Keep him away! I always loved you, half-elf! Always...loved ...you...”
「あいつにわたしをわたさないで! だめ、タニス! あいつを寄せつけないで! ずっとあなたを愛していたのよ、ハーフ・エルフ! ずっと……あなたを……愛していた……」
“Who? Kitiara! I don’t understand--“
「誰のことだ? キティアラ! わからないよ――」
But she did not hear him. Her ears were deaf forever to mortal voices.
だが、キティアラには聞こえていなかった。その耳にはもう、生命あるものの声は永遠にとどかない。
Tanis glanced up at Caramon. His face pale and grave, the big man shook his head. Slowly, Tanis laid Kitiara’s body back down upon the floor.
タニスは目をあげてキャラモンを見た。青ざめた厳粛な顔で、大男はかぶりを振った。ゆっくりと、タニスはキティアラの身体をふたたび床に横たえた。
“Tanis--“
“I’m all right,” the half-elf said gruffly, rising to his feet. But, in his mind, he could still hear her dying plea--
「タニス――」
「大丈夫だ」ハーフ・エルフはぶっきらぼうに言い、立ちあがった。だが頭の中では、キティアラの死に際の懇願の声がまだ響いていた――
“Keep him away!”
「あいつを寄せつけないで!」
***
キティアラ・ウス=マタール。この類稀な女性は、自分に一体何を望み、人生に何を求め、誰をどう愛していたのでしょうね。『戦記』と『伝説』から、何度も彼女の登場シーンを読み返し、行動、台詞、感情描写を吟味して考えました(『序曲』と『秘史』は矛盾が多いので外してあります)
彼女が野心と愛を秤にかけたときは、常に前者に傾いていました。だからといって、後者の質量をなかったことにできるでしょうか。自分の非を認めようとせず、一方的に被害者ぶりたがっているどこぞのハーフ・エルフは「彼女が誰かを愛するはずがない。愛せるはずなどないのだ」と言い張っていますが。
ここはどこだろう?
フロットサム?
ここでぐさりと来ました。
何故、瀕死の朦朧とした意識でタニスを認めて、真っ先に浮かんだのがフロットサムだったのか。懐かしいソレースでの日々でもなく、最後に逢ったネラーカでもなく。何故、そこがフロットサムであると思った、そう思いたかったのでしょう?
それは、フロットサムで再会した時、キティアラはタニスを配下の兵士だと、勝利に向けて自分と共に歩んでいける相手だと思い込んでいたからだと私は思います。
野心を選んだからといって、愛の重みがなくなるわけではありません。両方手に入れられるならそれにこしたことはないのです。そもそも、彼女は世界を独り占めしたかったわけではないのです。求めていたのは世界を分かち合える相手、そうではありませんか?
“we could have the world, you and I.”
「わたしたちは世界を手に入れることだってできたのだぞ、おまえとわたしとで」
“But you will have me, Tanis. By day we will command armies, rule the world. The nights, Tanis! They will be ours alone, yours and mine.”
「だが、おまえにはわたしがいるではないか、タニス。昼は二人で軍隊を指揮し、世界を支配する。そして、夜には!夜は二人だけのものだ、タニス、おまえとわたしだけの」
彼女は独りぼっちの玉座など欲してはいなかった。本当は愛も成功も両方欲しかった。ただ、誰も――タニスも、その他大勢の男たちも――それを満たしてはくれなかったのです。ただ一人を除いて。
タニスは彼女の思い込みを利用して騙したまま逃げようとしました。<冠>を取ってくればローラナを逃がしてやると言っても信じてくれませんでした。
彼女に匹敵するだけの野心の大きさと知力を持ち、ともに世界を分かちあえる相手なら、別に恋人でなくても良かったかも知れません(夜の相手としての愛人なら、いくらでも手に入れられるのですから)。
彼女が手塩にかけて育てた異父弟は、今度こそ姉と手を取りあうことを望んでいました。
“I could have made you queen of this world.”
「ぼくならあなたをこの世界の女王にもしてあげられたのに」
ですが残念なことに、かれの野心の大きさは、キティアラ様に受け入れられる範疇をはるかに超えていました。これは、愛の深さがどうこうという問題ではありません。
“But when you are strong, what place will there be for me this world? None!”
「あなたの力が強大になったとき、あなたはわたしのためにこの世界のどこかを与えてくださるのですか? いえ、そうではないはず!」
憎み嫉みあっていると認めた<暗黒の女王>に対してさえもこうです。
しかしついに、キティアラ様と互角に渡りあえる、世界を分かち合える相手が現れました。野心の大きさ、知力、胆力、さらには魅力においても。
You ruling with the staff, I with the sword.
おまえはその杖を使い、わたしは剣を使って統治するという計画は?
夢のようですね。それは溺れますよ夢中になりますよ。無理もないですよ。
さてここで、伝説5巻p134〜《妄執》で出した問いへの答えになります。
タニスも他の男も全く問題視しなかったどころか、むしろ愉しんでいたソス卿。ダラマールの存在だけは許せなかったのは、かれが単なる愛人ではなく、キティアラ様のパートナーたりえた(ソス卿が知る限り)唯一の男だったからだと思います。愛人は許せても相方を持つことは許せなかったのです。
***
愛に順位をつけるなんて無意味なことだとわかっていますが、私の結論はこうなります。
キティアラがただの女性として愛した度合い、長さで言ったらタニスが一番だったのかも知れません。
しかし、ただ者ではない、愛だけでは生きられない彼女が欲していた、愛と野心の双方を満たし、ともに玉座を狙えるパートナーになり得たのはダラマールだけでした。
そのダラマールと殺し合い、自分の死を悟り野望もまた潰え、さらに死以上の恐怖に直面したキティアラが最後に夢見たのが、フロットサムのタニス。それは虚像であったとはいえ、野心と愛を兼ね備えた理想のタニスだったのではないでしょうか。
キティアラ様考察、また3回後に続きます。戦記5巻「二つの言葉」以来の、原文読みの醍醐味炸裂!な回になります。
それにしても、キティアラ様に入れ込めば入れ込むほど、私の中でタニスちゃんが落ち目になっていくんですが……サマフレでは挽回してみせましょうね。
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