“Ta-tum, ta-tum,” Bertrem sang in a thin, off-key voice, pitched low so as not to disturb the echoes of the vast, vaulted halls of the Great Library.
伝説4巻p52
「タ、タン、タ、タン」ごくごく小さな調子っぱずれの声は大図書館の広大な丸天井に反響しないようにひどく低められていた。
***
「戦記」では死にかけのレイストリンを拾ったり、「伝説」開幕ではクリサニアの発言に驚かされたりといろんな目に遭わされている、文人代表バートレム氏。こんな出会いですが、序曲「レイストリンと兄」ではレイストリンの業績を世に著わすべく、ダラマールと文通したりしてます。
“My name is Dalamar. I serve--“
“Raistlin Majere!” Bertrem gasped.
「わたしの名前はダラマール。わたしは――」
「レイストリン・マジェーレに仕える者だな!」バートレムは息をのんだ。
Dalamar smiled. The elven features were delicate, handsome. But there was a cold, single-minded purposefulness about them that chilled Bertrem.
ダラマールは笑みを浮かべた。繊細なエルフの面立は美しく整っている。だがその顔にあらわれた、目的のためならなんでもしそうな冷たい表情に、バートレムは戦慄を覚えた。
“Here is what you want”--Astinus gestured--“the Dwarfgate Wars.”
“All these?”
「そなたの探しているものはここだ」――アスティヌスは身振りで示した――「<ドワーフゲイト戦争>についてのものは」
「これ全部ですか?」
“Perhaps I can help,”
“Take this with you. Give him the information he seeks. And tell him this--‘The wind blows. The footsteps in the sand will be erased, but only after he has trod them.’”
「手伝ってもよろしかろうな」
「これを持ってゆくがいい。レイストリンが求めている情報が得られるだろう。それからこう伝えなさい――『風が吹く。砂の上の足跡は消される。だがそれは、かの者が踏みつけてからだ』」
“What Astinus gave me is his own commentary on the Dwarfgate Wars, Shalafi.”
「アスティヌスがわたしにくれたのは、かれ自身が記した<ドワーフゲイト戦争>についての注釈書です、シャラーフィさま」
Astinus would know what I need. Proceed.
(アスティヌスはぼくが求めているものを知っているのだ。続けろ)
The undertaking would have been successful!
『その企ては成功していたであろう!』
Raistlin felt a sharp tug on his hands.
“Stop!” he ordered, cursing himself for losing control. But the orb did not obey his command. Too late, Raistlin realized he was being drawn inside....
レイストリンは両手が鋭く引っぱられるのを感じた。
「やめろ!」思わず自制を失ってしまったことをいまいましく思いながら命じる。
だがオーブは命令には従わなかった。遅すぎた――オーブの中に引きずりこまれながら、レイストリンはさとった――
Desperately, Raistlin struggled to pull away, to break the grip that seemed so gentle yet was stronger than the bonds of his life force. Deep he delved into his soul, searching the hidden parts--
レイストリンは死にものぐるいで離れようともがいた。この上なくやさしく見えて、その実かれの生命への執着力以上に強力な手を振りほどこうと、かれは心の奥深くをかきまわし、秘められた部分を探した――
--but for what, he little knew. Some part of him, somewhere, existed that would save him....
――だが探しているものが何かはほとんどわからなかった。かれの内のある部分に、どこかに、かれを救うものがあるのだ……
An image of lovely white-robed cleric wearing the medallion of Paladine emerged. She shone in the darkness and, for a moment, the hands’ grasp loosened--but only for a moment. Raistlin heard a women’s sultry laughter. the vision shattered.
パラダインのメダリオンをつけた白いローブをまとう美しい僧侶の姿が浮かんできた。闇のなかでその姿が光り輝き、つかのま手の力がゆるんだ――が、それはほんの一瞬にすぎなかった。官能的な女の笑い声が響き、僧侶の姿は砕け散った。
“My brother!” Raistlin called through parched lips, and an image of Caramon came forward. Dressed in golden armor, his sword flashing in his hands, he stood in front of his twin, guarding him. But the warrior had not taken a step before he was cut down--from behind.
「兄さん!」乾いてひび割れた唇で、レイストリンは呼んだ。キャラモンの姿があらわれた。金色の鎧を着て輝く剣を両手で持っている。兄は双子の弟の前に立ちはだかり、守ろうとした。だが戦士は足を一歩も踏みださないうちに切り倒されてしまった――背後から。
Raistlin’s head slumped forward, he was rapidly losing strength and consciousness. And then, unbidden, from the innermost recesses of his soul, came a lone figure. It was not robed in white, it carried no gleaming sword. It was small and grubby and its face was streaked with tears.
レイストリンの頭ががっくりと前に垂れた。体力と意識が急速に失われてゆく。そのとき、魂のもっとも奥の部分からひとりでに、ひとつの姿が浮かんできた。白いローブを着てもおらず、輝く剣を持ってもいない。小さく汚らしい姿で顔には涙のすじがついている。
In its hand it held only a dead...very dead...rat.
その手に握られているのは一匹の死んだ……完膚なきまでに死んだ……ネズミだった。
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