Astinus’s hands trembled, his pen dropped a blot of ink upon the paper, obliterating the last word.
伝説5巻p111
アスティヌスの手がわなないた。ペンが落ちて紙の上にインクのしみをつくり、最後の言葉が抹消された。
“You may go back, but you may find you change nothing. A pebble in a swiftly flowing river, that is all you may be.”
「もどってきても、何ひとつ変わっていないことがわかるだけかもしれない、と。はやい流れの川のなかの小石――そなたはしょせんその程度なのかもしれないのだ」
***
同じようなことを言われたときのレイストリンの反応は、うっすら笑って「小石に気をつけるがいい」”watch for the pebble!”(見ているがいい!)でした。この違いよ。
“If that is all, then at least I will die knowing that I tried to make up for my failure.”
「しょせんその程度だとしても、少なくとも自分のまちがいを償おうとしたという自覚をもって死ぬことができる」
“What failure is that you speak of Warrior? You risked your life going back after your brother. You did your best, you endeavored to convince him that this path of darkness he walked would lead only to his own doom,”
「そなたが言っているのはどういうまちがいのことだね、戦士よ?そなたは生命を賭して弟のあとを追い、時を遡っていった。そなたは最善をつくした。全力をつくしてそなたの弟に、かれが歩んでいる暗い小道はかれ自身の破滅につながるだけだと納得させようとしたではないか」
“Wherein did you fail?”
「そなたはどこでまちがったのだ?」
“A trick, wasn’t it, wizard? A trick to get me to do what you mages could not--stop Raistlin in his dreadful ambition.”
「策略だったんだ、そうだろう、魔法使いどの? あんたがた魔法使いにできなかったこと――レイストリンの恐ろしい野望をはばむこと――を、おれにやらせるための策略だったんだ」
“But you failed. You sent Crysania back to die because you feared her. But her will, her love was stronger than you supposed.”
「だが、あんたはまちがいを犯した。あんたはクリサニアを恐れたがゆえに、殺そうとして過去に送りこんだのだ。だがクリサニアの意志と愛はあんたが思っていた以上に強かった」
“Who are you to judge them?”
「神々を裁こうとするなど、いったい何さまのつもりなのだ?」
“They failed. The gods failed. And I failed.”
「魔法使いたちはまちがいを犯した。神々もまちがいを犯した。そしておれもまちがいを犯したのだ」
“I thought I could convince Raistlin with words to turn back from this deadly path he walked. I should have known better”
「おれはレイストリンに、やつが歩んでいる死の小道から引き返すようにと言葉で説得できると思っていた。そんなばかなことを考えるべきではなかったのだ」
The big man laughed bitterly. “What poor words of mine ever affected him?”
大男は苦い笑い声をあげた。「おれの乏しい言葉が、これまでレイストリンの心を動かしたことがあったか?」
“When he stood before the Portal, preparing to enter the Abyss, telling me what he intended, I left him. It was so easy. I simply turned my back and walked away.”
「やつが<扉>の前に立ち、<奈落>に乗りこむ準備をしていて自分の意図することをおれに告げたとき、おれはやつを見捨てた。まったく簡単なことだった。おれはただ背を向けて歩み去ったのだ」
“What would you have done?”
「いったいそなたに何ができたというのだ?」
“but I could have followed him--followed him into darkness--even if it meant my death.”
「だがやつについていくことはできた――やつについて闇のなかにはいっていくことは――たとえ、それがおれの死を意味していたとしても」
”To show him that I was willing to sacrifice for love what he was willing to sacrifice for his magic and his ambition.”
「やつが魔法と野望のために喜んで犠牲となったように、おれも愛のために喜んで犠牲になるとやつに見せてやることができたんだ」
“Then he would have respected me. Then he might have listened. And so I will go back. I will enter the Abyss”
「そうすれば、レイストリンはおれを見直したかもしれない。そうすれば、やつも耳を傾ける気になったかもしれない。だからこそ、おれはもどっていくつもりだ。<奈落>にはいっていく」
“and there I will do what must be done.”
「そしてそこで、以前やるべきだったことをするのだ」
“You do not realize what that means! Dalamar--“
「それがどういうことを意味するか、そなたはわかっていない! ダラマールは――」
Shaken by that strangled, pain-filled scream, Caramon opened his eyes, only to wish they had been shut forever before seeing such a grisly sight.
喉をしめあげられたような、その苦痛に満ちた絶叫に身震いしながら、キャラモンは目をあけた。そしてこのような恐ろしい光景を見るくらいなら、永久に閉じていたいと思った。
Once more, he began to close the cover...
“No!” Caramon cried, Reaching out, he laid his hands upon the pages.
Astinus released the open book.
ふたたび、アスティヌスは書物を閉じようとしていた……
「だめだ!」キャラモンは叫んだ。手をのばし、頁の上に両手を置いた。
アスティヌスは開いた書物から手を離した。
“Tell me!”
“Tell me, Par-Salian! What must I do? How can I prevent this?”
「教えてくれ!」
「教えてくれ、パー=サリアン! おれは何をすればいい? どうやればこうなることを防げるんだ?」
The wizard’s eyes were melting. His mouth was a gaping hole in the black formless mass that was his face. But his dying words struck Caramon like another bolt of lightning, to be burned into his mind forever.
魔法使いの目が溶けようとしていた。口は、かつて顔だった黒い無残な肉塊の中にぽっかりとあいた穴となっている。だが、魔法使いの末期の言葉は稲妻のようにキャラモンを直撃し、大男の心に永久に焼きつけられた。
“Raistlin must not be allowed to leave the Abyss!”
「レイストリンを<奈落>から出してはならぬ!」
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