2016年7月13日水曜日

伝説5巻p105〜《黙示》

TEST OF THE TWINS p57
“End it!” screamed Par-Salian. “End this torment! Do not force me to endure more!"

伝説5巻p105
「やめてくれ!」パー=サリアンは絶叫した。「この拷問をやめてくれ! これ以上わしに忍耐を強いるな!」

How much did you force me to endure, O Great One of the White Robes? came a soft, sneering voice into Par-Salian’s mind. The wizard writhed in agony, but the voice persisted, relentless, flaying his soul like a scourge.

『あんたはぼくにどれだけ忍耐を強いたかわかっているのか、白ローブの偉大なるおかたよ?』冷笑するやわらかな声がパー=サリアンの頭のなかに響いた。魔法使いは苦悶にもだえた。が、声は容赦なく続き、鞭のように魔法使いの魂を打ちつけてはぎとっていった。

You brought me here and gave me up to him--Fistandantilus! You sat and watched as he wrenched the lifeforce from me, draining it so that he might live upon this plane.

『あんたはぼくをここに連れてきて、あいつに引き渡した――フィスタンダンティラスに! やつがこの次元界で生きるためにぼくの生命力をむしりとり涸渇させていくあいだ、あんたはただ座って見ていたんだ』

“It was you who made the bargain,” Par-Salian cried, his ancient voice carrying through the empty hallways of the Tower. “You could have refused him--“

「取り引きをしたのはそなただったはずだ」パー=サリアンは叫んだ。老いた声は<塔>のがらんとした通廊に響き渡った。「そなたは拒むこともできたはずだ――」

And what? Died honorably? The voice laughed. What kind of choice is that? I wanted to live! To grew in my Art! And I did live. And you, in your bitterness, gave me these hourglass eyes--these eyes that saw nothing but death and decay all around me.

『それでどうなった?あっぱれに死んだっていうのか?』声は笑った。『それはどういう選択の余地だ? ぼくは生きたかった! ぼくの技をのばしたかった! そして実際、生きのびた。だがあんたはいやみたっぷりに、ぼくにこの砂時計の目を与えた――ぼくを取り巻くものすべてに死と崩壊しか見ることのできないこの目を』

Now, you look, Par-Salian! What do you see around you? Nothing but death....Death and decay...So we are even.

『いまこそ、いいか、パー=サリアン! あんたのまわりに何が見える? 死しかない……死と崩壊だけしか……これでぼくたちは対等になった』

You will watch me destroy him, Par-Salian, and when that battle is ended, when the constellation of the Platinum Dragon plummets from the sky, when Solinari’s light is extinguished, when you have seen and acknowledged the power of the Black Moon and paid homage to the new and only god--to me--then you will be released, Par-Salian, to find what solace you can in death!

『ぼくがパラダインを滅ぼすのを見ているがいい、パー=サリアン。そしてその戦が終わったとき、<白金の竜>の星座は空から落ち、ソリナリの光が消され、黒い月の力を目のあたりにするだろう。あんたがそれを認め、新たなる、唯一の神――このぼく――に敬意を表したとき、そのときこそあんたは解放されるのだ、パー=サリアンよ。死のなかにどれほどの安らぎがあるかを知ることになるだろう!』

***

 フィスタンダンティラスよりも、<暗黒の女王>よりも、誰よりもレイストリンが憎み、最後まで苦しめようとしたのはパー=サリアンでした。人はえてして、自分を傷つけ苦しめた当人よりも、それを黙認した人物の方に強い恨みを向けてしまうのです。それが本来なら、自分を導き庇護するべき立場の人間であればなおのこと。『イルスの竪琴』のかれをふと思い出しました。

“the more so as it will probably be the last thing I enjoy in this life.”
「大いに楽しむことにしよう。わたしの人生で楽しめる最後のことになりそうだから」
そう語ったラドンナ様は本当にパー=サリアンの転落を楽しんだだろうか。思うに、彼女はパー=サリアンの目の前で惨殺されたのではないかと想像します。それはかれに対して加えうる最悪の仕打ちのひとつでしょうから。それも、クリサニアの死に様をそっくりそのまま再現してみせるという趣向はどうでしょうね。これもあんたの仕組んだことだ、と。
 はい、自分の発想に引き笑いしてます。先に進みましょう。


Astinus of Palanthas recorded the words as he had recorded Par-Salian’s scream, writing the crisp, black, bold letters in slow, unhurried style.

 パランサスのアスティヌスはパー=サリアンの絶叫を記録したのと同じように、これらの言葉をも記録していた。明快な黒い肉太の文字を急ぎもせずにゆっくりと書きつけていく。

As you were first, Astinus, said the figure, so shall you be last.

『あんたは何よりも最初だったから、アスティヌス』人影は言った。『それゆえに何よりも最後にしてやろう』

“True, you will rule unchallenged. You will rule a dead world. A world your magic destroyed. You will rule alone. And you will be alone, alone in the formless, eternal void,”

「さよう、そなたは誰にも挑戦されない支配をするだろう。そなたは死んだ世界を支配するのだ。そなたの魔法が滅ぼした世界を。たった一人で支配するのだ。そなたは一人きりとなる――混沌とした永劫の虚無のなかで一人きりに」

“You saw the grief and sorrow of the god then as you see it now, Raistlin. And you knew then, as you know now but refuse to admit, that Paladine grieves, not for himself, but for you.”

「あのとき見たパラダインの悲しみと嘆きがいまも見えるはずだ、レイストリン。あのときそなたはさとったはずだ――いまもさとっているのを認めるのを拒んでいるが――パラダインの嘆きは御神ご自身に向けられたものではなく、そなたに向けられたものだということを」

“But you will find nothing but emptiness. And you will continue to exist forever within this emptiness--a tiny spot of nothing, sucking in everything around itself to feed your endless hunger....”

「だがそなたは虚無以外の何ものも見つけることはできぬ。そしてこの虚無のなかで未来永劫存在しつづけるのだ――極致の虚無の点として、終わりなき飢えを癒そうとして、周囲のあらゆるものを吸いこみながら……」

For the first time in his existence, compassion touched Astinus. His hand marking his place in his book, he half-rose from his seat, his other hand reaching into the Portal....

 みずからの存在がはじまって以来はじめて、アスティヌスの心にあわれみの情が浮かんだ。片手で書物の書きかけの場所を押さえ、椅子から半分腰を浮かせて、かれはもう一方の手を<扉>にさしのべた……

Then, laughter...eerie, mocking bitter laughter--laughter not at him, but at the one who laughed.

 と、笑い声がした……背筋が凍るような、嘲りの痛烈な笑い声――それはアスティヌスに対してではなく、笑い声を発している本人に向けられたものだった。

With a sigh, Astinus resumed his seat and, almost at the same instant, magical lightning flickered inside the Portal. It was answered by flaring, whole light--the final meeting of Paladine and the young man who had defeated the Queen of Darkness and taken her place.

 ため息をついて、アスティヌスはふたたび腰を降ろした。ほとんど同時に、<扉>のなかで魔法の光がまたたいた。それに応ずるように燃えるような白光があらわれた――パラダインと、<暗黒の女王>を打ち負かし、その地位を奪った若者とがついに対峙したのだ。

Within a matter of moments, all was over. The white light flickered briefly, beautifully, for one instant. Then it died.

 わずか数瞬のうちに、すべては終わった。白光がほんの一瞬、短く美しく輝いた。それから、消えた。

As of Fourthday, Fifthmonth, Year 358, the world ends.

『三五八年、第五の月、第四日、世界は終わる』

A hand slammed down across the pages.
“No,” said a firm voice, “it will not end here.”

 と、手がのびてきて、頁を押さえつけた。
「いや」きっぱりした声が言った。「これで終わりではない」

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