2016年7月6日水曜日

伝説4巻p316〜《罪》

WAR OF THE TWINS p400
This was his moment. The moment he had been born to face. the moment for which he had endured the pain, the humiliation, the anguish of his life. the moment for which he had studied, fought, sacrificed...killed.

伝説4巻p316
 それはかれのための一瞬だった。生まれたときから迎えることが決まっていた一瞬。そのために生まれてからずっと苦痛や屈辱、苦悶を耐え忍んできた一瞬。そのために研究を重ね、闘い、生贄を捧げ……殺しをもしてきた一瞬。

watching her, enchanted by her beauty, Raistlin forget his great goal. He could only stare at her, entranced. Even the thoughts of his magic--for a heartbeat--fled.

 クリサニアを見ていたレイストリンはその美しさにすっかり心を奪われ、偉大なる目的を忘れてしまった。魅せられたようにただ彼女を見つめている。魔法について考えることすら――心臓がほんの一回打つあいだ――失念してしまっていた。

“Black Dragon.”
“From darkness to darkness/My voice echoes in the emptiness.”

「黒竜よ」
「闇より闇へ/わが声は虚空にこだまする」

Raistlin felt Caramon's hand close over his arm. Angrily, he tried to shake off his brother’s grasp, but Caramon’s grip was strong.

 キャラモンの手が腕にかかるのをレイストリンは感じた。魔法使いは怒って、兄の手を振り払おうとした。だが、キャラモンの手の力はすさまじかった。

“Take us home, Raistlin....”

「おれたちを家に連れて帰ってくれ、レイストリン……」

“I’m clinging to you because the waters are closing over your head, Raistlin,”

「おれがおまえにくっついているのは、おまえの頭が水にのみこまれそうになっているからだ、レイストリン」

“My hand upon your arm. That’s all we have,”

「おれの手がおまえの腕にかかっている。おれたちにあるのはそれがすべてだ」

“Nothing can erase what you have done, Raist. It can never be the same between us. My eyes have been opened. I now see you for what you are.”

「何をもってしても、おまえがしたことを消すことはできない、レイスト。おれたちの仲も昔のままではいられない。おれはやっと目を開いたんだ。いま、おれはありのままの姿のおまえを見ている」

“And yet you beg me to come with you!”
“I could learn to live with the knowledge of what you are and what you have done.”

「それなのにぼくに一緒にこいと頼むんですか!」
「おれはおまえのありのままの姿と、おまえがしたことを知って、受けいれることができた」

“But you have to live with yourself, Raistlin. And there are times in the night when that must be damn near unbearable.”

「だがおまえは自分自身をかかえて生きなければならんのだ、レイストリン。夜、それがほとんど耐えられなくなるようなときがきっと何度もやってくるぞ」

“Think of this, though. you have done good in your life, Raistlin--maybe better than most of us.”

「だがこうも考えてみろ。おまえは人生でよいこともしてきたんだぞ、レイストリン――たぶん、たいていの人間よりもよいことをな」

“Oh, I’ve helped people,. It’s easy to help someone when that help is appreciated. But you helped those who only threw it back in your face. You helped those who didn’t deserve it. You helped even when you knew it was hopeless, thankless.”

「そう、おれだって人々を助けてきた。誰かを助けて感謝されるときは、それをするのは簡単だ。だがおまえは、自分の顔に助けを投げつけて返すような人々を助けた。助けるに値しない人々を助けた。どうしようもなく、報われもしないとわかっているときにも助けの手をさしのべたんだ」

“There’s still good you could do...to make up for the evil. Leave this . Come home.”
Come home....come home....

「おまえにできる善行はまだあるんだ……悪業を埋め合わせられる。こんなことはやめろ。家に帰ろう」
(家に帰れ……家に帰れ……)

Raistlin closed his eyes, the ache in his heart almost unendurable. His left hand stirred, lifted. Its delicate fingers hovered near his brother’s hand, touching it for an instant with a touch as soft as the feet of a spider. On the edges of reality, he could hear Crysania’s soft voice, praying to Paladine.

 レイストリンは目を閉じた。胸の痛みはほとんど耐えがたいほどになっていた。左手がわななき、持ちあげられる。ほっそりした指が兄の手のすぐそばを漂い、ほんの一瞬、蜘蛛の足がふれるようにそっとふれた。現実とのはざまで、クリサニアのやわらかな声が聞こえてくる。

When Raistlin spoke next, his voice was soft as his touch.

 次にレイストリンが口を開いたとき、その声は手と同じようにそっと静かだった。

“And, you are right. Sometimes, in the night, even I turn from myself.”

「そう、兄さんの言うとおりですよ。ときどき、このぼくですら自分自身から目を背ける夜があります」

Opening his eyes, Raistlin stared fixedly into his brother’s. “But, know this, Caramon--I committed those crimes intentionally, willingly.”

 レイストリンは目を開き、まじまじと兄の目を見つめた。「でもこのことを知っておいてください、キャラモン――ぼくはこれらの罪をちゃんと自覚して、望んで犯したのです」

“Know this, too--there are darker crimes before me, and I will commit them, intentionally, willingly....” His gaze went to Crysania, standing unseeing in the Portal, lost in her prayers, shimmering with beauty and power.

「それから、これも知っておいてください――ぼくの前にはもっと暗い罪が待っています。そしてぼくはそれを犯します。ちゃんと自覚して、望んでね……」魔法使いの目がクリサニアに向けられた。何も見えないまま<扉>の前に立ち、祈りに没頭している彼女は美と力を帯びて輝いていた。

“White dragon. From this world to the next/my voice cries with life.”

「白竜よ。現世から来世へ/わが声は生命もて響く」

“Let go of me, my brother,”

「放してください、兄さん」

Turning around, Caramon faced his twin. Though the warrior’s face was drawn with pain and weariness, his expression was one of peace and calm, one who knows himself at last.

 キャラモンは振り向き、双子の片割れと向きあった。戦士の顔は苦痛と疲労でげっそりとやつれていたが、その表情は安らぎと落ち着きにも満ちていた。ようやく己を知った者の表情だ。

“Come on, Tas. Let’s go home. Farewell, my brother.”

「こいよ、タッスル。家に帰ろう。さらばだ、弟よ」

***

“My hand upon your arm. That’s all we have,”

「おれの手がおまえの腕にかかっている。おれたちにあるのはそれがすべてだ」

「おまえが死んだらおれも死ぬ(逆も然り)」「おまえを殺しておれも死ぬ」を卒業し、ありのままの弟を見つめながらの「一緒に帰ろう」「おまえにできることはまだある」。ここまで成長するとは思っていませんでしたキャラモン。しかし善行をしたという自覚がない一方で、罪はちゃんと自覚しているレイストリンの覚悟を揺るがすには遠く及びません。

 本人も語っているように、レイストリンは恐ろしく罪深い確信犯です。それを否定したり弁護しようとする気は全くありません。ただ、私もかれと同じ側の人間であり、私がかれだったら同じことをするだろうとは思っています。

1 件のコメント:

  1. いやー今回は日付変更前に間に合わないかと思いました。本当はもっとぐだぐだと長いコメントを考えていたんですが、ツイッターでpixivの素敵イラスト見せていただいたら、いい感じに明るく吹っ飛びましたよ。
    明日で4巻も終わりです。5巻に目を通していると鬱展開に心が折れそうです。気晴らしにタニスちゃんをいじめまくります。

    返信削除