Come home....
The voice lingered in his memory. Someone kneeling beside the pool of his mind, dropping words into the calm, clear surface. Ripples of consciousness disturbed him, woke him from his peaceful, restful sleep.
伝説5巻p161
記憶の中にその声が残っていた。心の池のそばに誰かがひざまずいており、池の静かな澄んだ表面に言葉が落ちていく。意識のさざ波が騒がしく、かれは平和に憩う眠りから目覚めた。
“Come home....My son, come home.”
「家にお帰り……息子よ、家にお帰り」
“You have died, my son,” his mother said gently.
「おまえは死んだのよ、息子よ」母親はやさしく言った。
“Died!” Raistlin repeated, aghast.
「死んだ!」レイストリンは肝をつぶした。
He looked down at the woman kneeling on the ground before him.
Raistlin smiled, his thin lips pressed together grimly.
かれは自分の前にひざまずいている女を見おろした。
レイストリンはにやりと笑った。薄い唇がぐっと引き締められる。
“No,” he said, and this time his voice was firm and confident. “No, I did not die! I succeeded.”
“Fiend, apparition! Where is Crysania?”
「いや」今度のレイストリンの声はきっぱりと自信に満ちていた。「ちがう、ぼくは死んだのではない! ぼくは成功したんだ」
「悪鬼め、まやかしめ! クリサニアはどこだ?」
“Raistlin! Stop, you’re hurting me!”
Raistlin started, staring. It was Crysania who spoke.
「レイストリン! やめて、痛いわ!」
レイストリンはぎょっとして目をみはった。しゃべっているのはクリサニアだ。
Smiling, sighing, Raistlin put his arms around her, pressing her close against his body. She was flesh, warmth, perfume, beating heart....
にっこりしてため息をつき、レイストリンは彼女をぐっと強く抱きしめた。たしかに肉体があり、暖かく、よい香りがした。心臓の鼓動が聞こえ……
So, you have come home at last, my mage!
『では、ようやく家に帰ってきたのだな、わらわの魔法使いよ!』
Desperately, furiously, Raistlin called upon his magic. Yet, even as he formed the words of the defensive spell chant in his mind, he felt a twinge of doubt. Perhaps the magic won’t work!
死にものぐるいで、レイストリンは魔法を呼びだした。だが、防御の呪文を頭のなかで唱えようとした瞬間に、鋭い疑惑を感じた。魔法が効かないかもしれない!
Bright white light blinded him. He was falling, falling, falling endlessly, spiraling down from darkness into day.
まばゆい白光でレイストリンの目は何も見えなくなった。かれは落ちていった。下へ、下へ。果てしなく下へ、ぐるぐるとまわりながら暗黒から陽ざしのなかへ。
***
キャラモン、クリサニアに続いて、ここでレイストリンにもステータス異常「盲目」がつきました。クリサニアの信仰の光によって。
Opening his eyes, Raistlin looked into Crysania’s face.
Her face, but it was not the face he remembered. It was aging, dying, even as he watched.
目をあけると、クリサニアの顔があった。
たしかにクリサニアの顔だ。だが、それはかれの記憶にある顔ではなかった。見守るうちにも老いていき、死につつあった。
“What do I look like? Tell me! I’ve changed, haven’t I?”
「ぼくの顔はどうなっている? 教えてくれ! ぼくも変化しているのか?」
“You are as you were when I first met you in the Great Library,” Crysania said, her voice still firm, too firm--tight, tense.
「あなたはわたしが大図書館でお会いしたときそのままですわ」クリサニアの声はやはりきっぱりと言った。異様なほどきっぱりしていた――こわばり、緊張して。
He had but to look, he knew, and he would see the gold-tinged skin, the white hair, the hourglass eyes....
見る必要はなかった。わかっていた――見えるのは金色がかった肌、白い髪、砂時計の瞳孔を持つ目……
***
クリサニアの若く美しい顔を見られなくなって落胆し、過去において健康な目に映っていた彼女の姿を思い浮かべるレイストリン。自分の外見にコンプレックスをもつ一方で、いや、だからこそなんでしょうか、意外と面食いです。キャラモンやタニスへの嫉妬も激しかったですしね。
“I succeeded,”
“And my magic is gone.”
「ぼくは成功した」
「そしてぼくは魔法を失ったんだ」
“But, no, you haven’t defeated me!”
「だがちがうぞ、おまえはぼくを負かしたわけじゃない!」
“I feel you probing my mind, reading my thoughts, anticipating all I say and do. You think it will be easy to defeat me!”
「おまえがぼくの心を探っているのを感じるぞ、ぼくの思考を読み、ぼくの言動をすべて予知していることも。ぼくを打ち負かすのはたやすいことだと思っているだろう!」
“But I sense your confusion, too. There is one with me whose mind you cannot touch! She defends and protect me, do you not, Crysania!”
“Yes, Raistlin,”
「だが、おまえがとまどっているのも感じるぞ。ぼくといっしょに、おまえがふれることのできない心がひとつあるからだ! 彼女がぼくを防御し、ぼくを守ってくれるのだ。そうだな、クリサニア?」
「ええ、レイストリン」
He could hear laughter....
レイストリンの耳に笑い声が聞こえた……
Maybe I should give up now! he thought in bitter despair. I am tired, so very tired. And without my magic, what am I?
もしかしたら、いまあきらめるべきかもしれない! 苦い絶望のなかで、かれは考えた。ぼくは疲れている。本当にひどく疲れている。それに魔法も失ったぼくはいったい何なのだ?
Nothing. Nothing but a weak, wretched child....
何もない。かわいそうな弱々しい子ども以外の何ものでもない……
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