2016年7月15日金曜日

伝説5巻p134〜《妄執》

2019年1月27日、ちょっと加筆してます。

TEST OF THE TWINS p75
“But that ended, it ended with you, Kitiara....”

伝説5巻p134
「だがそれももう終わった。そなたともに終わったのだ、キティアラ……」

“I admired you for that, I admired you for your courage, your skill, your ruthless determination. In you, I see myself. I see what I might have become.”

「それゆえにわたしはそなたに敬服した。そなたの勇気、知略、情をはさまぬ決断力に。そなたの裡に、わたしは自分の姿を見ているのだ。わたしがなっていたかもしれない姿を」

***

 疑問その1。
 ここに先立つシーンで本人の口から語られるソス卿の破滅の物語。生前のかれには勇気は少しはあったかもしれませんが、知略や情をはさまぬ決断力は欠片も見られません。かれは何を勘違いしているのでしょうか?


“No, I wasn’t surprised he outwitted you. Of all the living I have ever met, he is the only one I fear.”

「だが、そなたの弟がそなたをだしぬいたことは驚くにあたらぬ。これまで出あったあまたの生者のなかで、わたしが恐れるのはあの男だけなのだからな」

***

 疑問その2。
 ソス卿は何故レイストリンを恐れるのでしょう?そもそもこうなってしまったかれに、何を恐れることがありましょう?失って怖いものなどもうありますまいに。失って嬉しいものは数多あれど。


“I have even been amused your love affair, my Kitiara.”
“I watched you twist that weakling, Tanis Half-Elven, inside out, and I enjoyed it every bit as much as you did.”

「そなたの情事も楽しませてもらったぞ、わがキティアラ」
「そなたがあの弱虫、ハーフ・エルフのタニスを徹底的に翻弄するのを眺めて、そなたの一挙一動を楽しんだぞ」

“But now, Kitiara, what have you become? The mistress has become the slave. And for what--an elf!”

「だが結局、キティアラ、そなたは何になりはてたのだ?女主人が奴隷になってしまった。それもむざむざと――一人の黒エルフのために!」

“Oh, I have seen your eyes burn when you speak his name. I’ve seen your hands tremble when you hold his letters.”

「あやつの名を口にするそなたの目が燃えるのをわたしは見たぞ。あやつの手紙を持つそなたの手が震えるのも」

***

 疑問その3。
 ソス卿がタニスや他の愛人の存在は許容あるいは楽しむことができても、ダラマールだけは許せないのはなぜでしょう?


“No, we dead cannot feel lust. But we can feel hatred, we can feel envy, we can feel jealousy and possession.”

「そうとも、われら死者は情欲を感じることはない。だが、憎悪を感じることはできる。妬みも、嫉妬も、所有欲も感じることができるのだ」

“I could kill Dalamar--the dark elf apprentice is good but he is no match for me. His master? Raistlin? Ah, now that would be a different story.”

「わたしはダラマールを殺すこともできる――あの黒エルフの魔法使いは腕はいい。だがわたしの敵ではない。その主人か? レイストリン? ああ、それはまた話がちがってくる」

“As for you, Kitiara, know this--I would endure this pain, I would live out another century of tortured existence rather than see you again in the arms of a living man!”

「そなたについては、キティアラ、こう言っておこう――そなたがふたたび生きた男の腕に抱かれるのを見るくらいなら、この苦しみに耐えるほうがましだ。さらにもう百年、この拷問のような存在でいるほうがましだ、と!」

And then, at last, the unseen lips smiled, and the flame of the orange eyes burned bright in their endless night.

 やがて、ついに目に見えぬ唇が笑みをつくり、橙色の目に宿っている炎が果てしない夜のなかでまばゆく燃えあがった。

“You, Kitiara--you will be mine--forever....”

「そなただ、キティアラ――そなたはわたしのものになる――永遠に……」

***

 疑問その1は、疑問そのものが答えとも言えます。ソス卿に破滅をもたらしたのは、戦記や伝説1巻で語られているように、生前のかれの情熱やエルフ乙女の呪い、ましてや彼女との間に育まれた愛ではありません。かれを滅ぼしたのは、死していっそう際立つ憎悪、妬み、嫉妬、そして所有欲です。かれはそのことに気づいていないか、認めようとしていませんが。
 生前の自分の真の姿から目をそらし、パラダインの聖女になるはずだったたおやかな乙女とは真逆の存在、自分になかった意志力を持つキティアラ様に執着し続ける限り、かれに救済はないのです。

 疑問その2。永劫の生の虚無よりも、己の罪の物語の苦痛を喜ぶソス卿です。前途に虚無の未来が待ち構えているかもしれないと予感しつつ突き進むレイストリンに恐怖を覚えるのは当然かもしれません。

 疑問その3は、キティアラ様にとってダラマールがどう特別だったのか、彼女は結局何を、誰を求めていたのか、にかかってくると思います。今後、ソス卿がいよいよ怪しい動きを始めるあたりで明らかになるでしょう。

こちらの記事、キティアラの臨終のシーンもご参照ください。
http://criesofd.blogspot.com/2016/08/6p123damn-liar.html

 いやあ男の妄執って怖いなあ。怖いのでいろいろ考えて語っちゃいました。言葉にすれば怖くない。ふふん。

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