2016年7月4日月曜日

伝説4巻p291〜《月鏡》

WAR OF THE TWINS p386
Crysania knelt in prayer in her room.

伝説4巻p291
 クリサニアは自室で跪いて祈っていた。

transfixed, she stared at the stars, tracing the lines of the constellations--Gilean, the Book, the Scales of Balance; Takhisis, the Queen of Darkness, the the Dragon od Many colors and of None; Paladine, the Valiant Warrior, the Platinum Dragon.

 射すくめられたようにクリサニアは星々を見つめ、星座の線をたどった――<書物>であり<均衡の天秤>であるギレアン。<暗黒の女王。であり<万色にして無色の竜>タキシス。<雄々しい戦士>であり<白金の竜>パラダイン。

the moon--Solinari, God’s Eye; Lunitari, Night Candle. Beyond them, ranged about the skies, the lesser gods, and among them, the planets.

 そして月――<神の目>であるソリナリ。<夜の蝋燭>であるルニタリ。その彼方には満天にさまざまな下位神の星座があり、さらにそのあいだにさまざまな惑星がある。

And, somewhere, the Black Moon--the moon only his eyes could see.

 そのどこかに<黒い月>もあるのだ――かれの目でしか捉えることのできない月が。

And then she heard the trumpet. Pure and crisp, its music pierced her heart, crying a paean of victory that thrilled her blood.
At that moment, the door to her room opened.

 そのとき、らっぱの音が聞こえた。軽快で小気味のいい楽の音がクリサニアの心にしみとおり、勝利の叫びをあげてちをたぎらせる。
 その瞬間、部屋の扉が開いた。

She was not surprised to see him. It was as if she had been expecting his arrival, and she turned, calmly, to face him.

 その男を見ても、クリサニアは驚きはしなかった。まるでかれがくるのがあらかじめわかっていたかのようだ。ゆっくりと冷静に、クリサニアは振り向いて男と向きあった。

Raistlin stood silhouetted in the doorway, outlined against the light of torches blazing in the corridor and outlined as well by his own light which welled darkly from beneath his robes, an unholy light that came from within.

 戸口にレイストリンの姿が黒々と影になって浮きあがっていた。背後には廊下で燃えている松明の光と、ローブの下からほとばしり出るかれ自身の暗い光――内側から放たれる邪悪な光――とがあった。

Drawn by some strange force, Crysania looked back into the heavens and saw, gleaming with that same dark light, Nuitari--the Black Moon.

 何か不思議な力に引っぱられて、クリサニアは振り返って天を見た。そこには同じ黒い光が輝いていた。ヌイタリ――<黒い月>が。

She caught her breath. She had seen him in the ecstasy of his magic, she had seen him battling defeat and death. Now she saw him in the fullness of his strength, in the majesty of his dark power.

 クリサニアは息をのんだ。これまで彼女は魔法に酔い痴れているレイストリンを見、挫折や死と戦うレイストリンを見てきた。いま、彼女が見ているのは、暗黒の力の威光に包まれ、力に満ちたレイストリンだった。

“It is time, Crysania,”

「時がきた、クリサニア」

“I’m afraid,”

「怖いわ」

“You have no need to be afraid,”
“Your god is with you. I see that clearly. it is my goddess who is afraid, Crysania.”

「怖がることはない。きみにはきみの神がついている。はっきりとそれが見える。おびえているのはぼくの女神のほうだ、クリサニア」

His hands caught her close to his breast, his arms embraced her. His lips closed over hers, stealing her breath with his kiss.

 レイストリンはクリサニアを胸に抱き寄せ、両腕で包みこんだ。唇がクリサニアの口に近づき、接吻で彼女の息を奪いとった。

Crysania closed her eyes and let the magical fire, the fire that consumed the bodies of the dead, consume her body, consume the cold, frightened, white-robed shell she had been hiding in all these years.

 クリサニアは目を閉じ、魔法の炎が――死者たちを焼きつくしたその炎が――自分の体を、長年隠れ蓑としてきた、おびえに満ちた冷たい白いローブを焼きつくすにまかせた。

he drew back, tracing her mouth with his hand, raising her chin so that she could look into his eyes.

 レイストリンの唇が離れ、かれの手がクリサニアの唇をなぞった。そして彼女の顎を持ちあげ、まっすぐ目をのぞきこめるようにした。

And there, reflected in the mirror of his soul, she saw herself, glowing with a flaming aura of radiant, pure, white light.

 そこに――レイストリンの魂の鏡に映っているのは彼女自身の姿だった。それは燃えるような純白の輝きを放つ霊光に包まれて光り輝いていた。

She saw herself beautiful, beloved, worshipped. She saw herself bringing truth and justice to the world, banishing forever sorrow and fear and despair.

 クリサニアは美しい自分を見ていた。愛され、尊敬されている自分を。この世に真実と正義をもたらし、悲しみや恐怖や絶望を永遠に追いはらった自分を。

“Once again, I give you a charm.”

「いま一度、きみにお守りを与えよう」

She trembled. Drawing her near, holding her close one last time, he pressed his lips upon her forehead. Pain shot through her body and seared her heart. She flinched but but did not cry out. He smiled at her.

 クリサニアは震えていた。レイストリンは彼女を抱き寄せ、最後に一度ぎゅっと抱きしめてから、その額に唇を押しつけた。クリサニアの全身を痛みが貫き、心臓を焦がした。クリサニアはたじろいだが、悲鳴はあげなかった。レイストリンはにっこりと微笑みかける。

“Come.”

「行こう」

On the whispered words of a winged spell, they left the room to the night, just as the red rays of Lunitari spilled into the darkness--blood drawn from Solinari’s glittering knife.

 飛翔の呪文のつぶやきとともに、二人はその部屋から夜のなかにに出て行った。折しもそのとき、ルニタリの赤い光が闇のなかにまき散らされた――まるできらめくソリナリのナイフから血が滴るかように。

***

 らっぱが響かせる「勝利の叫び」”crying a paean of victory”、FF11やFF14で吟遊詩人が使う呪歌「戦士たちのピーアン」ですね。なじみのない単語ですがちゃんと辞書に入ってました。スタームが大司教の塔(あるいはシルヴァネスティの塔)で聞いた、あるいはネラーカの神殿で鳴り響いた音もこのように冴え冴えとしていたのでしょう。

 ついにレイストリンの姿と、レイストリンの目に映る己の姿しか映さなくなってしまったクリサニア。信望者の目にしか見えないはずのヌイタリの光まで見ることができたのは、レイストリンを通してでしょうか。いや、ソリナリや星々を見上げたのは「空」”sky”だったのに対し、ヌイタリが輝くのを見たのは「天」”heaven”だったからでしょうか。死者たちを焼き払った煙が昇っていったheaven。その先を彼女も見てしまったのです。定命のものが見るべきでない世界を。

 焼きつくされる白いローブ、クリサニアの全身を貫く痛み、最後に部屋にまき散らされた血のように赤い月光。これらもまた、定命のものは見届けてはいませんでした。見ていたのは、ただ天の星々と三色の月だけでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿