2016年7月1日金曜日

伝説4巻p366〜《reason》

WAR OF THE TWINS p366
Raistlin half-turned. “I have communed with all three,” he replied of offhandedly.
“Three?” She was startled. “Gilean?”
“Who is Astinus but Gilean’s mouthpiece?”

伝説4巻p255
 レイストリンは少しだけ振り向いた。「ぼくは三人の神々全員と交わったのです」無雑作に言いはなつ。
「三人とも?」クリサニアは驚いた。「ギレアンも?」
「アスティヌスはギレアンの代弁者でなければ何なのです?」

“I have never talked to the Dark Queen,”

「わたしはまだ<暗黒の女王>と話をしたことはありませんわ」

“Haven’t you?” Raistlin asked with a penetrating look that shook the cleric to the core of her soul. “Does she not know of your heart’s desire? Hasn’t she offered it to you?”

「ありませんか?」レイストリンは突き通すような眼差しでクリサニアを見つめた。僧侶は体の芯まで震えあがった。「あなたの心のなかの欲望を<女王>が知らないとでも? それは<女王>があなたに差しだしたのではありませんか?」

“If she has,” she answered in almost inaudible tones, “she has given it with one hand and denied it to me with the other.”

「もし<女王>がそれをしたのなら」蚊の鳴くような声でいう。「<女王>は片方の手でそれを差しだし、もう片方の手でわたすことを拒んだのですわ」

***

 片手で差し出されながら、もう片手で拒まれる神々の策略。レイストリンに差し出された、時を変える可能性と同様ですね。

 このシーンに先立つ、クリサニアの寝室を訪れたレイストリンとのきわどいシーンもいいんですが、ここは我慢して、その分次次回でがっつりやりましょう(もちろんご要望があれば取り上げます)。


“How can you keep him locked up in the darkness like this?”
“Have you ever treated plague victim before, Lady Crysania?” Raistlin asked in an odd tone.

「こんな闇のなかに監禁しておくなんて。こんなひどいことがどうしてできますの?」
「疫病の患者をあつかわれたことはありますか、レディ・クリサニア?」妙な声音でレイストリンは言った。

“No, of course not. the plague never came to Palanthas. It never struck the beautiful, the wealthy....”

「そう、もちろんないでしょうね、疫病などパランサスにはびこることはなかったでしょうから。疫病が富や美を襲うことはないのですから……」

“Well, it came to us,”
“Of course, there were no healers.”
“Even their own family members fled them.”

「だがぼくたちのところにはやってきました」
「もちろん、癒し手などいませんでした」
「患者の家族までが逃げ出したのですからね」

Raistlin spoke in an undertone, and Crysania realized that he had forgotten her presence.

 レイストリンは低い声でしゃべっている。かれはクリサニアがいることを忘れているのだ。そうクリサニアは感じとった。

“So did Caramon--fearing for my health, he said. Bah!” Raistlin laughed without mirth.

「キャラモンも賛成はしませんでしたよ。ぼくの体が気にかかるから、そう言ってね。ばからしい!」レイストリンはおもしろくもなさそうな笑いをあげる。

“He feared for himself. The thought of the plague frightens him more than a army of goblins. But how could I turn my back on them? They had no one...no one. Wretched, dying...dying alone.”

「兄が恐れていたのは自分自身の身を案じてのことです。兄にとって疫病はゴブリンの大軍より恐ろしいものでした。でもどうして病に苦しむ人々に背を向けることができましょう? かれらには誰一人いないのです……誰一人。みじめに死んでゆくだけなのです……一人きりで」

Staring at him dumbly, Crysania felt tears sting her eyes. Raistlin did not see her. In his mind, he was back in those stinking little hovels...

 クリサニアは口もきけずにかれを見つめていた。目に熱い涙がこみあげてくるのが感じられた。レイストリンはクリサニアを見てはいなかった。かれの心は、悪臭のしみた小さなあばら家に舞い戻っていた。

He saw himself moving among the sick in his red robes, forcing the bitter medicine down their throats, holding the dying in his arms, easing their last moments.

 赤いローブを着た自分が病人のあいだを歩きまわり、苦い薬を飲みくださせたり、死にゆく者を腕に抱いて、いまわの際の安らぎを与えてやったりしているのが見える。

He worked among the sick grimly, asking for no thanks, expecting none. His face--the last human face many would see--expressed neither compassion nor caring.

 病人のなかで、かれは黙々と働いていた。感謝を求めもせず、何を期待するわけでもなく。その顔には――とても人間の顔には見えなかった――憐れみも愛情も浮かんでいない。

Yet the dying found comfort. Here was one who understood, here was one who lived with pain daily, here was one who had looked upon death and was not afraid....

 だが死にゆく人々は慰めを見いだしていた。ここに理解してくれる人がいる。ここに日々苦痛とともに生きている人がいる。ここに死を目のあたりにしてなお恐れない人がいる……

Raistlin tended the plague victims. He did what he felt he had to do at the risk of his own life, but why? For a reason he had yet to understand A reason, perhaps, forgotten....

 レイストリンは疫病患者の手当てをした。生命を脅かす危険を冒しても、かれはしなければならないと感じたことをした。だがそれはなぜだったのだろう?その理由はいまもってわからない。ことによると、忘れてしまったのかもしれなかった……

***

 偽善、あるいは独善は、レイストリンが絶対にもちえない悪徳でしょうね。なにせ本当の善行を為しても自覚が全くないのですから。もし患者たちがかれに感謝を示すことができていたなら(おそらくそれすらもできないほど弱っていたのでしょう)、かれはそれを受け止めることができていたでしょうか。そして<扉>の前で双子の兄の言葉に心動かされていた、そんな可能性はあったでしょうか。

 レイストリンがキャラモンや、面倒を見てくれようとする者につっけんどんなのは、単に感謝のしかたを知らないからなのかな、とも一瞬思いましたが、伝説3巻の宿屋ではクリサニアに感謝を示してましたっけ。

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