2016年7月22日金曜日

伝説5巻p208〜《大杯》

TEST OF THE TWINS p120
“What was that?” Gunthar turned around, holding in his hand a mug of his finest ale (drawn from the barrel in the dark corner by the cellar stairs). He handed the ale to Tanis.

伝説5巻p208
「何だね?」秘蔵の極上エール酒(貯蔵所に降りる階段わきの薄暗い隅にある樽から出してきたものだ)の大杯を持って、グンター卿は振り向いた。そしてエール酒をタニスに渡した。

“I said you’re damn right I’m overwrought!”

「おれが働きすぎなのはまったく仰せのとおりだと言ったのです!」

Gunthar sighed and tugged at his mustaches gloomily. All he needed now was a kender....

 グンター卿はため息をつき、憂鬱な顔で口髭をひっぱった。いま、必要なのはケンダーだ……

“Very well, Tanis. I will skip the elven amenities and get right to the point. I think your past experiences have made you jumpy--you and Elistan both.”

「よろしい、タニス。エルフ流の礼儀作法は抜きにして、要点に行くとしよう。思うにきみはこれまでの経験からひどくびくつきやすくなっているのではないかな――きみとエリスタンの双方が」

“It’s the matter of logistics, Tanis.”
“And even if she had the manpower to fight her way through, look how long she’d have extend her supply lines!”

「これは論理の問題なのだよ、タニス」
「それにだ、たとえ女卿が兵を総動員して力まかせに進路を切り開いていったとしても、補給路をどこまでのばせるものか見てみるがいい!」

***

 補給路の話が出てくるところからしても、logisticsはこの場合「兵站」ですね。将軍になったキャラモンも、まっさきにこのことを考えていました。往々にして、戦闘そのものよりも勝敗を決する、食料や物資の安定供給。普通の軍隊指揮官なら絶対に無視しないことなんですが、残念ながら普通ではないキティアラ様には通用しないのでした。


“You say you respect her, but do you respect her enough?”

「あなたはキティアラに敬意を表するとおっしゃいましたが、じゅうぶんにそうなさっていらっしゃるんでしょうか?」

“You don’t believe this, do you?”

「あなたは信じてらっしゃいませんね?」

“My lord, I watched Raistlin grow up. I have traveled with him, seen him, fought both him and against him. I know what this man is capable of!”

「閣下、おれはレイストリンが育つのをずっと見てきました。やつとともに旅をし、やつを見まもり、敵になったり味方になったりして戦ってきました。この男にどれだけのことができるか、おれは知っているのです!」

“Dalamar believes his master’s return is imminent. I believe him, and so does Elistan.”

「ダラマールは師の帰還が迫っていると確信しています。おれもそれを信じているし、エリスタンも信じています」

“Why do we believe him, Lord Gunthar? Because Dalamar is frightened. He is afraid--and so we are.”

「われわれがなぜダラマールを信じているとお思いですか、グンター卿? それはダラマールがおびえているからです。かれはひどく恐れています――われわれも同じなのです」

Looking at him now, Gunthar felt suddenly closer than he had ever come before. He saw wisdom in the slightly slanted eyes, wisdom that had not come easily, wisdom that came through inner pain and suffering.

 今かれを見て、グンター卿は急に、これまでになく近しい気分を感じた。わずかに吊りあがった目に叡智が見てとれた――たやすくは見られない叡智、内心の苦痛と懊悩から生まれる叡智が。

He saw fear, the fear of one whose courage is so much a part of him that he readily admits he is afraid.

 そこにはおびえがあった。勇気がじゅうぶん血肉になっている勇者が、自分自身で恐れていると認めるほどの激しいおびえが。

“Very well, Tanis.” Lord Gunthar’s stern face relaxed, the cool, polite tones of his voice grew warmer. “I will return to Palanthas with you.”

「よくわかった、タニス」グンター卿のいかつい顔がやわらぎ、冷ややかで慇懃な口調に暖かみがました。「きみとともにパランサスに戻ろう」

Forgotten in the confusion, Tanis walked back to the fireplace, picked up his mug of ale, and sat down to enjoy it.

 タニスは大騒動のなかで忘れさられ、ふたたび炉ばたにもどると、エール酒の大杯をとりあげ、腰を降ろしてゆっくりと味わおうとした。

But, after all, he did not taste it. Staring into the flames, he saw, once again, a charming, crooked smile, dark curly hair....

 だが結局、よく味わうことはできなかった。炎を見つめるかれの目にはふたたび、あの魅力的な拗ねた笑みと黒い巻き毛が映っていた……

***

 もったいないですね。フィズバンご指定の、階段わきのとっておきの樽のエールを味わえないなんて。でもフィズバンもあの時、ドラゴン・オーブがノームのもとにあると聞いて、ショックのあまり大杯を取り落としてましたっけ。

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