2016年5月20日金曜日

伝説3巻p53〜《過去の主》

WAR OF THE TWINS p36
The hands tightened their grasp, the pain stabbed him, and he sank--not into darkness, but into remembrance.

伝説3巻p53
 亡霊の手がさらにくいこみ、苦痛が刺し貫いた。レイストリンは沈んでいった――闇のなかではなく――追憶の中へ。

Deception was life’s blood to Raistlin.

 レイストリンにとって、周囲をだますことは活力の源となっていた。

He enjoyed his game with Fistandantilus, too.
Sometimes Raistlin thought he could detect Fistandantilus studying his face, as though thinking it looked familiar….

 この遊びはフィスタンダンティラスまでも相手どっていた。
 ときどきレイストリンは、フィスタンダンティラスがまじまじと自分の顔を見つめているように感じることがあった。まるで見覚えのある顔だといわんばかりに……

No, Raistlin enjoyed the game. But it was totally unexpected that he come upon something he had not enjoyed. And that was to be forcibly reminded of the most unhappy time of his life--his old school days.

 そう、レイストリンはこの駆け引きを楽しんでいた。だから、楽しくないことに出あうとはまったく予想外だった。それは、いつしかこれまででいちばん不幸だったころの記憶がよみがえってきたことだ――昔の、学校時代の記憶が。

***

 何が”No,”なんだろうとしばし考えましたが、フィスタンダンティラスとの駆け引きに感じた恐怖を否定しているのでしょうか。恐れてなどいない、楽しんでいるのだ、と。


The Sly One--that had been his nickname among the apprentices at his old Master’s school. Never liked, never trusted, feared even by his own Master, Raistlin spent a lonely, embittered youth.

<ずるい奴>――これが、かつての師の魔法学校にいた時代に弟子たちがレイストリンにつけたあだ名だった。人に好かれることも信頼されることもなく、師にすら恐れられて、レイストリンは孤独で苦い青年期を送った。

The only personwho ever cared for him had been his twin brother, Caramon, and his love was so patronizing and smothering that Raistlin often found the hatred of his classmates easier to accept.

 かれのことを気にかけてくれるのはただ一人、双子の兄のキャラモンだけだった。だが、あまりにも保護者ぶった、息苦しいほどのキャラモンの愛情に比べると、同級の者の憎悪のほうがまだしも受けいれやすいと思うことがしばしばだった。

***

<塔>の主、現在の主となり、過去の主に挑むだけの力を身につけてもなお、レイストリンを苦しめる記憶。最近再読した『ケプラー疑惑』で述べられていた、ケプラーの学生時代がふと連想されました。彼もまた、周囲を挑発せずにはいられない天才でした。


“A common sleight-of hand trick, fit only for street illusionists!”
“Thus I earned my living,”
“I thought it suitable for use in such a collection  of amateurs as you have gathered together, Great One.”

「ありふれた手品じゃわ、通りに立つ手品師がやるような!」
「ぼくはこうして生活の糧を得てきたんです」
「あなたが集めた素人連中の技比べにはこれが似つかわしいと思ったのです、<偉大なるお方>よ」

There was nothing.

 何も起こらない。

“I see you recognize me at last,”
“So much for the body waiting for you in the future.”

「ぼくが誰だか、やっとわかったようですね」
「未来であなたを待っている体だというのはさておいてね」

You would have become me.”
“No,” said Raistlin softly,
I intend to become you!”

「あなたはぼくになろうとしていたのだ!」
「いいえ」レイストリンは静かに言った。
「ぼくがあなたになるのです!」

“Protected from all forms of magic,”
“but not protected against sleight-of-hand. Not protected against yhe skills of a common street illusionist….”

「たしかにそれはあらゆる形の魔法から保護されていました」
「でも、小手先の早業からは保護されていなかった。ありふれた街頭の奇術師の手品からは保護されていなかったのですよ――」

“Why rush to your own destruction?”

「どうしてそう破滅に向かいたがる?」

“You know,”

「御存じのはずです」

“We could have done much together, you and I. Now--“

「われわれが一緒になればいろんなことができただろうに。おまえとわしが一緒になればな。どうだ――」

“Life for one. Death for the other,”

「生きるのは一人。そうでないほうは死ぬのです」

The mage on the floor could not speak, but his eyes, as they gazed into the eyes of his murderer, cast a curse of such hideous aspect that the two guardians of the Tower felt even the chill of their tormented existence grow warm by comparison.

 床に倒れている魔法使いは、口はきけなかったが、自分を殺そうとする敵をにらみつける目はすさまじい呪詛を放っていた。<塔>の番人たちは、これに比べれば、自分たち呪われた存在の冷たささえ温かく思えると感じたほどだった。

In his mind was knowledge, memories of hundreds ofof years of power, spells, visions of wonders and terrors that spanned generations. But there, too, were memories of a twin brother, memories of a shattered body, of a prolonged, painful existence.

 頭には何百年ものあいだの力や呪文についての知識と記憶、何世代にもわたって見てきた不思議や恐怖があった。だがまた、双子の兄や損なわれた体についての記憶、だらだらと続く苦痛に満ちた身についての記憶もあった。

“Who am I?”

「わたしは誰なんだろう?」

2 件のコメント:

  1. レイストリンの記憶を見て、ある人物を思い出しました。
    その方は研究課設立以来の秀才。容姿も美しく、齢30でポストを既に手にしています。しかし師からは非常に好かれたものの、正論を容赦なく突きつける性格と人付き合いの悪さにより、同期たちからの評価は散々。嫌がらせも少なからずあり、孤独な学生生活を送ったそうです。
    魔法にせよ学問にせよ、何かを極めるにはそれだけ犠牲が必要なのだと思った次第です。

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  2. その方は師に愛され、認められたのなら、それでいいのではないかと考えてしまいました。
    同期たちのレベルが(いろんな意味で)低すぎたのでは、そんな人たちと無理して付き合う事はないと思ってしまう自分も問題あるのかもしれませんね(汗)
    だって世界は研究室だけではないのですから。わかってくれる人、愛してくれる人は必ずいるはずです。巡り会うには運と努力が必要ですが。

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