“Astinus looked up then,”
“and he said, ’You!’”
伝説3巻p128
「すると、アスティヌスは顔をあげました」
「そして言ったのです。『あなたでしたか!』と」
“But before I could say anything or ask what he meant or even how he knew me, he picked up his pen and--going to the words he had just written--crossed them out!”
「でも、わたしが何も言わないうちに……その言葉の意味も、どうしてわたしのことを知っているのかも訊かないうちに、再びペンを取りあげて――たった今書いたばかりの文章を――線で消してしまったのです!」
“He--he said such information would cost you. Every man has his price, even he.”
“Cost me!”
「こう――こう言ったのです。そのような情報はレイストリンどのの値段と同じだけの値打ちがある。買収のきかない人間はない、このアスティヌスにしても、と」
「ぼくの値段!」
Setting the glass back down upon the desk, Crysania quickly drew her robe over her injured arm.
“He’s doesn’t mean to hurt me,”
クリサニアはグラスを机に置き、そそくさとローブで手首のあざを隠した。
「レイストリンはわたしを傷つけるつもりではなかったのです」
“He is so caught up in his greater vision that he doesn’t know when he hurts others.”
「あの人は偉大な考えに夢中で、自分が他人を傷つけていることを知らないのです」
“Oh, he knows all right,” Caramon muttered to himself. “I’m just beginning to realize--he’s known all along!”
「ああ、あいつはちゃんと知ってるとも」キャラモンは口のなかでつぶやいた。「ようやくわかりかけてきた――あいつはいつだって知ってるんだ!」
“So you have become master of time, yet you do not return with power, as was foretold.”
「されば、そなたは時の主となったのか。まだ、予言に言われたように力もて帰還してはおらぬというのに」
“My name is not Fistandantilus, Deathless One.”
「ぼくの名はフィスタンダンティラス――<死せざる者>ではありません」
***
邦訳だと、フィスタンダンティラスという名が<死せざる者>を意味しているようですが、このDeathless Oneとは後にあるように<年経らぬ方>、アスティヌスへの呼びかけにも見えますね。
Eagerly, he leaned forward, his eyes shining as Raistlin slowly drew aside the folds of his black robes, revealing what seemed an empty, crystal globe hovering within his hollow chest cavity like a clear, crystalline heart.
熱心な様子で前に身を乗りだす。アスティヌスが目を輝かせて見ている前で、レイストリンはゆっくりと黒ローブの合わせ目を開いた。空洞になった胸腔のなかに、澄んだ水晶の心臓のように一見からっぽのクリスタル球みたいなものが浮かんでいる。
“And now my payment,”
“Where is the portal?”
「これでこちらの支払いはすみました」
「<扉>はどこにあるのです?」
“Can you not guess, Man of the Future and the Past?”
「推測はつかないのかな、<未来と過去の主>よ?」
***
<未来と過去の主>と来ましたか。未来を見ることはできないと言いながらクリサニアのことも知っていたアスティヌス。<過ぎゆく現在の球>なんてなくとも、全てをお見通しなのではないですか?
“--deep within the dungeons of Zhaman,” Raistlin said bitterly. “Here, Fistandantilus fought the Great Dwarven War--“
「……ザーマンの地下迷宮の奥深くだ」レイストリンは吐きすてるように言った。「そこで、フィスタンダンティラスは<大ドワーフ戦争>を戦った――」
“Will fight…” Astinus corrected.
“Will fight,” Raistlin murmured, “the war that will encompass his own doom!”
「これから戦うのだ……」アスティヌスが訂正する。
「これから戦うのだ」レイストリンはつぶやいた。「本人をも滅ぼしてしまう戦いを!」
“Lady Crysania came to you, several days ago. She said you were writing as she entered and that, after seeing her, you crossed something out. Show me what that was.”
「何日か前、レディ・クリサニアがここにきたでしょう。彼女は、はいっていったときあなたは書きものをしていたと言っていました。それから、彼女を見て、何かを線で消したと。そこのところを見せてください」
“This alters time.”
“This alters nothing,” Astinus said coolly. “She came in his stead, that is all. An even exchange.”
「これが時を変えるのか」
「これは何も変えはしない」アスティヌスは冷ややかに言った。「その男の替わりに彼女がきた、それだけだ」
“Unless you have the power to change the course of rivers by tossing in a pebble,”
「小石を投げ込んで河の流れを変えるだけの力がそなたになければな」
Raistlin looked at him and smiled, swiftly, briefly. Then he pointed at the globe.
レイストリンはアスティヌスを見、つかのま、うっすらと笑った。それから球を指さした。
“Watch, Astinus,” he whispered, “watch for the pebble! Farewell, Deathless one.”
「気をつけるんだな、アスティヌス」ささやく。「小石に気をつけるがいい! さらばだ、<年経らぬ方>よ」
On this date, Afterwatch rising 15, Denubis, a cleric of Paladine, arrived here, having been sent by the great archmage, Fistandantilus, to discover the whereabouts of the Portal. In return for my help, Fistandantilus will make what he has long ago promised me--the Globe of Present Time Passing….
『本日、“暗の刻・昇十五”、パラダインの僧侶デヌビスがここを訪れた。大魔法使いフィスタンダンティラスの使いで、<扉>の所在を求めにきた由。わたしの助力への礼として、フィスタンダンティラスはかねてより約束のものをつくってくれることになった――<過ぎゆく現在の球>を……』
Denubis’s name had been crossed out, Crysania’s written in.
そしてデヌビスの名前が線で消され、かわりにクリサニアの名が記されていた。
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