“I think…he will,” she said, overcome by confusion, her thoughts going back to the time in his chambers when he had been so near her, the look of longing and desire in his eyes, the admiration.
伝説2巻p279
「同意します……そう思いますわ」すっかりうろたえながら、彼女はレイストリンがすぐ間近にいた、かれの自室でのあの時のことを思い起こしていた。かれの目に浮かんでいたあこがれと欲望の眼差しを、賞賛を。
“And he loves you,”
「それにあなたを愛している」
“My lady, “ he said in a hushed, solemn voice, “if you are right, if your goodness and your love can turn him from those dark paths that he walks and lead him--by his own choice--into the light, I would…I would--“
「レディ」押しころしたまじめな声で、キャラモンは言った。「もしあなたのおっしゃるとおりなら、もしあなたの善意と愛があいつを、今歩いている暗い小径から引き返させ、光のなかへ――あいつ自身の選択として――導くことができるというのなら、おれは……おれは――」
It was hope that anchored his storm-tossed spirit, the same hope Crysania felt suddenly welling up inside her.
嵐に揺れ騒ぐかれの心に繋ぎ止められているのは希望だった。それと同じ希望が自分のうちに急にわきあがってくるのを、クリサニアは感じていた。
“Come on with me, Crysania! Come with me to a time when you will be the only cleric in the world, to a time when we may enter the portal and challenge the gods, Crysania! Think of it! To rule, to show the world such power as this!”
「一緒においでなさい、クリサニア! ぼくと一緒に、あなたが世界でただ一人の僧侶となる時代へ。堂々と正面玄関からはいっていって神々に挑みかかれる時代へ、クリサニア! 考えてもごらんなさい!世界を支配するのです、世界にこのような力を見せつけるのです!」
Raistlin let go his grasp. Raising his arms, the black robes shimmering about him as the lightning flared ant the thunder riared, he laughed. And then Crysania saw feverush gleam in his eyes and the brighr spots of color on his deathly pale cheeks.
レイストリンは手を離した。稲妻が閃き雷が轟くなか、両腕を差し上げ、黒ローブをゆらめかせながら、笑い声をあげた。その目のなかの熱を帯びたようなきらめきと、死人のように青白い頬にさす鮮やかな血の色とを、クリサニアは見ていた。
“You must work your evil without me,”
“I will not go with you.”
「邪悪なことをなさるのならわたしなしでなさってください」
「わたしはあなたと一緒には参りません」
“Then you will die,”
“Oh, not by my hand,” Raistlin said with a strange smile. “You will die by the hands of those who sent you here.”
「それなら死ぬことになろうな」
「いやいや、ぼくの手によってじゃありません」レイストリンは奇妙な笑みを浮かべて言った。「あなたは、あなたをここに送りこんだ人々の手によって殺されるんです」
“I cannot read the language of magic,”
“Or are you going to ‘translate’ for me?”
「わたし、魔法の言葉を読むことはできませんわ」
「それともわたしのために、あなたが『翻訳』してくださいます?」
***
なぜこの’translate’、『翻訳』にかっこが付いているのでしょう。クリサニアに魔法の言葉が読めないのをいいことに、自分に都合よく捻じ曲げた解釈を聞かせようとしていると揶揄しているのでしょうか。
ふと思い出したのが、パー=サリアンとラドンナのシーンです(ユスタリウスもいましたけど)。フィスタンダンティラスの杖の元の持ち主の像を見させ、時間遡行の魔法の梗概文、魔導器の説明を閲覧させたあの場も、疑いと、それを凌駕する不安に満ちていました。もっとも、「わたしが君に嘘をつけんのは知っているだろう」と請け合われなくても、パー=サリアンに欺かれるラドンナ様ではないのですが。
Raistlin’s eyes flared in swift anger, but the anger was almost instantly replaced by a look of sadness and exhaustion that went straight to Crysania’s heart.
とたんにレイストリンの目に怒りが燃え上がったが、その怒りはほとんど瞬時に悲しみと疲労の色にとって替わられ、クリサニアの心を強く打った。
Glancing down at the black robes he wore, he smiled the twisted, bitter smile. “Long ago, I willingly paid the penalty. I do not know why I should have hoped you would trust me.”
自分の身を包む黒いローブを見下ろし、かれは歪んだ苦い笑みを浮かべた。「ずっと昔、ぼくは自ら進んで報いを受けました。なぜあなたに信じてもらいたいと思ってしまうのか、ぼくにはわからないんです」
“The device Par-Salian gave Caramon to get us back?”
「これがパー=サリアンがキャラモンに与えた、わたしたちを連れ帰ってくれる装置なのね?」
Transport one person only….
Transport one person only!
運ぶは唯一人のみ……
運ぶは唯一人のみ!
“They sent you back to die, Crysania,” Raistlin said in a voice that was little more than a breath, yet it penetrated to Crysania’s very core, echoing louder in her mind than the thunder.
「かれらはあなたを死なせるためにここへ送り込んだのですよ、クリサニア」呼吸するのとほとんど変わらないくらいの声で、レイストリンがささやいた。が、その声はクリサニアの中枢の核までしみこみ、彼女の心に雷よりも大きくこだました。
“This is the good you tell me about? Bah! They live in fear, as does the Kingpriest! They fear you as they fear me.”
「これが、あなたがぼくにおっしゃる善とやらですか? ふふん! 彼らもまた恐怖のなかで生きているのです、神官王と同じように! 彼らはぼくを恐れると同じくらいあなたをも恐れています」
“The only path to good, Crysania, is my path! Help me defeat the evil. I need you….”
「善に至る唯一の小径はね、クリサニア、ぼくの小径なのですよ! ぼくが邪悪を打ち負かすのを手伝ってください。ぼくにはあなたが必要なんだ……」
“Tomorrow,” he whispered. “Tomorrow….”
「明日です」かれはささやいた。「明日ですよ……」
***
「天国に行く最も有効な方法は、地獄へと至る道を熟知することである」
マキアヴェッリの言葉のなかでも五指に入るくらい好きです、これ。
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