2016年5月19日木曜日

伝説3巻p13〜《流れ》

WAR OF THE TWINS p3
The dark waters of time swirled about the archmage’s black robes, carrying him and those with him forward through the years.

伝説3巻p13
 黒々とした時の川の流れが、大魔法使いの黒いローブのまわりで渦巻き、魔法使いとその連れとをはるかな昔へと運んでゆく。

The sky rained fire, the mountain fell upon the city of Istar, plunging it down, down into the depths of the ground. The sea waters, taking mercy on the terrible destruction, rushed in to fill the void.

 空には火の雨が降り、イスタルの上に山が落ち、都市を下へと押しつぶす。はるか地中深くへと。海水は、この恐るべき崩壊に慈悲を垂れるかのごとく押し寄せ、間隙を満たす。

The great Temple, where the Kingpriest was still waiting for the gods to grant him his demands, vanished from the face of the world.

 そして<大神殿>はいまなお、神々が要求に応えてくれるのを待ち続ける神官王を抱いたまま、世界の表面から消滅した。

But there were many on Ansalon who envied the inhabitants of Istar. For them at least, death had come swiftly.

 だが、アンサロン大陸には、イスタルの民をうらやむ者が数多くいた。少なくとも、イスタルでは死が速やかに訪れたから。

For those who survived the immediate destruction on Ansalon, death came slowly, in hideous aspect--starvation, disease, murder…
War.

 アンサロン大陸では速やかな崩壊を免れた人々に、死は少しずつ、じわじわと訪れた。それも身の毛のよだつような形で――飢え、病、殺戮……
 そして、戦。



“Raist! Where--“
“No. Sit back!”
Caramon’s eyes closed, a wry smile twisted his face. For a moment, he looked very like his twin.
“No, I didn’t kill him!” he said bitterly. “How could I?”

「レイスト!どこに――」
「いけません。すわって!」
 キャラモンは目を閉じた。顔に歪んだ笑みが浮かぶ。一瞬、双子の弟そっくりに見えた。
「まさか、殺したりするもんか!」苦々しい声。「どうしてそんなことがおれにできる?」

***

 2巻ラストでついに表面化した兄弟の対立が、これからがっつりと語られるわけですが、いきなりこれです。あの地下での迫力は、友の酷たらしい死に駆り立てられた勢い故だったんでしょうか?それともフィスタンダンティラスだと思っていた時同様、意識のない者は殺せませんか?兄さん。

 これまで、二人がそっくりに見えた時は、たいていレイストリンの方がキャラモンに似て見えていました。白いローブを羽織ってみたり、珍しく素直な真情を覘かせたりしたときです。しかしここに至って、キャラモンの方がレイストリンの表情を、その内にある思いを獲得。今後の変化の描写も見逃せません。


“Keep away from him. Get the light away from him! Let them see him as he exists in their darkness!”

「レイストから離れろ! その光をあてるのをやめるんだ! やつらの闇のなかに置いて、とっくりと顔を見せてやれ!」

“My brother said that?”
Crysania moved her hands to look at him, puzzled at his tone of mingled admiration and astonishment.

「兄さんがそうせよと言ったのですか?」
 クリサニアは両手をはずしてかれを見た。レイストリンの声に賞賛と驚きの響きがあるのに面食らったのだ。

“He saved our lives,” Raistlin remarked, his voice once more caustic. “The great dolt actually had a good idea. Perhaps you should leave him blind--it aids his thinking.”

「では、兄さんがぼくたちの命を救ってくれたんだ」レイストリンの声は再び辛辣なものに戻った。「能なしのでくのぼうにしてはよく頭がまわったものだ。あなたが盲いさせてくれたからかもしれないな――それで頭がめぐるようになったのか」

“Crysania…” he breathed, “I…am going…to lose consciousness….You…will…be alone…in this place of darkness….”

「クリサニア……」レイストリンは息を漏らした。「ぼくは……もうすぐ……意識を失う……。きみは……この闇のなかで……一人ぼっちに……なる……」

“He’s depending on me,”
“In his weakness, he is relying on my strength. All my life,”
“I have prided myself on my strength. Yet, until now. I never what true strength was.” Her eyes went on Raistlin. “Now, I see it in him! I will not let him down!”

「この人の生死はわたしにかかってる」
「この人は弱っていて、わたしの強さを頼りにしているのだ。この先一生」
「わたしは自分の強さを誇りにしてきた。でも今までは、真の強さとはどういうものか知らなかった」レイストリンに目を向ける。
「今、この人のおかげでそれがわかった!この人の期待にそむくわけにはいかない!」

***

 こんな内の強さを孕んだ、こんな弱々しい声音で語りかけられたら、常闇だろうがアビスだろうが乗り越えて行かずにはいられません。クリサニアへの呼称が「きみ」になったのはここが初ですね。がんばれ大理石の乙女。

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