2016年5月7日土曜日

伝説2巻p216〜《虚偽》

TIME OF THE TWINS p330
“The way of this church?”

伝説2巻p216
「この教会の流儀を?」

Embarrassment, anger, and guilt stained Crysania’s cheeks a faint pink, her gray eyes darkened to deep blue. The color in her cheeks spread to her lips and suddenly she was beautiful, something Raistlin noticed without meaning to.

 困惑、怒り、うしろめたさがクリサニアの頬をかすかなピンク色に染めた。灰色の瞳が深い青色に変わる。頬の色は唇にまで広がり、突然レイストリンは彼女を美しいと思った。思わず知らず、そう気づいたのだ。

The thought annoyed him beyond all bounds, threatening to disrupt his concentration. Irritably, he pushed it away.

 この意識にかれは度はずれてうろたえ、危うく集中を損なってしまいそうになった。腹だたしく思いながら、レイストリンはその意識を追いやった。

“I know your doubts, Crysania,”
“I know what you have seen.”

「ぼくはあなたの疑いを知っているんですよ、クリサニア」
「あなたが何を見てきたかを知っています」

“You thought to vindicate the church, when you came back; to discover that others caused the gods in their righteous anger to hurl the firey mountain down upon those who forsook them. You sought to blame…magic-users, perhaps.”

「しかし、あなたは帰ったら教会を擁護しようと考えていました。神々を見捨てた人々の上に、神々が義憤をもって猛火の山を投げ落とされたのは、ほかの人々のせいだということにして。その責めをあなたは――おそらくは、魔法使いに負わせようとした」

“Look at this man,” Raistlin whispered. “’blessed’ of the gods.”

「見るがいい」レイストリンはささやいた。「神々に『祝福されている』その男を」

Raistlin felt the body he held so near his own start to tremble, and he smiled in satisfaction. Moving his black-hooded head near hers, Raistlin whispered in her ear, his breath touching her cheek.

 わが身の間近に引き寄せている身体が震えはじめるのを感じ、レイストリンは満足げな笑みを浮かべた。黒いフードに隠れた顔をクリサニアの顔に寄せ、耳もとにささやきかける。息がクリサニアの頬にかかった。

“What do you see, Revered Daughter?”
His only answerwas a heartbroken moan.
Raistlin’s smile deepened. “Tell me,” he persisted.

「何が見えます、聖女どの?」
 その答えは胸が張り裂けるようなうめき声だった。
 レイストリンの笑みが深くなった。「教えてください」強要する。

“What spell is this you have cast over me?”
“No spell, Revered Daughter,”

「わたしに何の魔法をかけたのです?」
「何の魔法もかけてはいませんよ、聖女どの」

Crysania stared at Raistlin wildly. She wanted him to be lying, she willed him to be lying.

 クリサニアはまじまじとレイストリンを凝視していた。彼の言っていることは嘘だと思いたかった。かれが言っていることを嘘にしたかった。

But then she realized that, even if he was, it didn’t matter. She could no longer lie to herself.

 だが、その時さとった。たとえかれが言っていることが嘘であっても、それは関係ないのだ。もはや彼女は自分に嘘をつくことができなくなっていた。

Raistlin watched her go, feeling neither elation nor satisfaction at his victory. It was, after all, no more than he had expected.

 レイストリンはそれをじっと見送った。勝利に酔ってもいなければ満足を覚えてもいなかった。単に予期していたとおりだというにすぎない。

One other person in the room watched Crysania flee the audience chamber. He watched as Raistlin ate the orange, draining the fruit of its juice first, then devouring the pulp.

 クリサニアが謁見室を出て行くのを見守っていた人物が、室内にもう一人いた。その男はレイストリンがオレンジを食べるさまを――まず果汁をすすり、それから果肉を貪るように食べるさまを――じっと見守っていた。

***

 草食系レイストリンの、血をすすり肉を貪るがごときオレンジの食べっぷり。devourはいいとして、普通drainなんて人間が食物に対して使わないですよね?見守る某氏はその意味を、本人以上に良くわかっているようです。かれの渇きを、落ちかかっている陥穽を。

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