Crysania neither saw nor heard Tasslehoff.
伝説2巻p353
クリサニアはタッスルホッフを見てもいなかったし、かれの言うことを聞いてもいなかった。
The colors vanished, as did the light, leaving her alone in the darkness that was calm and soothing to her soul.
“Raistlin,” she murmured. “He tried to tell me….”
乱舞する色彩は消え失せ、光も消えた。彼女は一人闇の中に残された。落ち着いた、心をなだめてくれる闇のなかに。
「レイストリン」クリサニアはつぶやいた。「あの人はわたしに告げようとしていた……」
“Thr gods come,” said the musical voice from out of the center of the light, “at my command--“
「神々がやってくる」光の中心から、楽の音のような声がした。「余の指図によって――」
“Crysania!” Tasslehoff shouted hoarsely. But she didn’t notice him.
「クリサニア!」しゃがれた声で、タッスルホッフは叫んだ。だが、クリサニアはかれに気づかない。
Outside the great arena, running through Istar, Caramon fought his way through death-choked streets. Much like Crysania’s, his mind, too, heard Raistlin’s voice.
大闘技場の外に出、キャラモンは死にあえぐ街路をかきわけかきわけ、イスタルの街を走り抜けていった。かれの頭でもまた、クリサニアと同じように強く、レイストリンの声が響いていた。
But it was not calling to him. No. Caramon head it as he had heard it in their mother’s womb, he heard the voice of his twin, the voice of the blood they shared.
だが、それはかれを呼ぶ声ではなかった。キャラモンは母親の子宮のなかで聞いていたように、その声を聞いていた。双子の片割れの声を、二人で分けあっている血の声を。
He recognized the man’s bronze, muscular body, but the man’s face--the face that should have been so familiar--was the face of someone Tas had never seen before.
その男の赤銅色のたくましい身体には見覚えがあったが、男の顔――タッスルにはなじみ深いはずのその顔――はこれまで見たことがない人間のものだった。
“Caramon?” he whispered as the man surged past him. But Caramon neither saw him nor heard him.
「キャラモン?」自分を押しのけて進もうとする男に、タッスルは小声で言った。だが、キャラモンはかれを見てもいなければ、かれの声を聞いてもいなかった。
Tas struggled to stay conscious, despite the pain. But his brain, as if stubbornly refusing to have anything more to do with this mess, snuffed out the lights.
痛みはすごかったが、タッスルは懸命に意識を保とうとした。だがかれの脳みそは、この大混乱にこれ以上つきあうことを頑強に拒むかのように、不意に明かりを消した。タッスルは闇のなかに沈んでいった。
***
唯一正気のタッスル、クリサニアにもキャラモンにもそっくり同じ表現で無視される。まったく、二人ともレイストリンしか眼中にないんですから。ちょっと休んでていいですよ、可哀想に。
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