2016年4月9日土曜日

伝説1巻p139〜《運命》

TIME OF THE TWINS p79
Then, with a courtly gesture, the cursed Knight of Solamnia placed his hand over that portion of his anatomy that had once contained his heart.
“But I bow in the presence of a master,” Lord Soth said.

伝説1巻p139
 と、優雅な物腰で、呪われたソラムニア騎士はかつて心臓のあった胸の上に手を当てた。
「だが、わたしは主なる者の前では頭を垂れよう」ソス卿は一礼した。

Kitiara tewed her lip, checking an exclamation.

 キティアラは唇を噛みしめて叫びを堪えた。

“Dissapointed, my dear sister?”

「落胆なさいましたか、愛しい姉上?」

***

 落胆だったのか、それとも安堵だったのか。本人もわかっていないのでしょうね。ソス卿がレイストリンに触れんばかりに近づいたのを見て、呼吸を早めたその時も。

“And she came?”
“Oh,quite eagerly, I assure you.”

「それで、彼女はわざわざやって来た?」
「それはもう、いそいそとね」

“You don’t wanr the world,”
“Then that leaves only--“
Kitiara almost bit her tongue.

「世界が欲しくないとはね」
「ならば、残るはただ一つ――」
 キティアラは危うく舌を噛みかけた。

“Now you see the importance of this Revered Daughter of Paladine! It was fate brought her to me, just when I was nearing the time for my journey.”

「これで、このパラダインの聖女のもつ重要性もおわかりでしょう!ぼくの旅立ちの時が近づいているちょうどそのときに彼女が現われるとは、まさに天の配剤ですよ」

“How--how do you know she will follow you? Surely you didn’t tell her!”

「どう――どうして彼女がおまえについてゆくだろうとわかる?彼女にすべてを話したわけではあるまい」

“Only enough to plant the seed in her breast,” Raistlin smiled, looking back to that meeting. Leaning back, he put his thin fingers to his lips.

「彼女の胸に種子を撒くに充分なだけは話しましたよ」レイストリンは微笑しながら、例の邂逅を改装した。椅子の背にもたれ、かれは細い指で自分の唇に軽く触れた。

“my performance was, frankly, one of my best. Reluctantly I spoke, my words drawn from me by her goodness and purity. They came out, stained with blood, and she was mine…lost through her own pity.”

「率直に言って、ぼくの演技は上出来だったな。気乗りしない風にぼくが語っていると、彼女の善良さと純粋さがぼくから勝手に言葉を引き出してくれた。引き出された言葉には血のしみがついていて、そうなれば彼女はもうぼくのもの――彼女は自分の同情心に溺れたわけだ」

***

 かつてはキャラモンにしか通用しなかった(キャラモンにしか使っていなかった?)人誑しスキル、よく二年間で鍛えたものですね。クリサニア、ダラマール、危うく実の姉にまで。


What if he isn’t insane? What if hw really means to go through with this?

<かれが狂っていないとしたら?かれが本当にこれをやってのけるつもりだとしたら?>

In fact, her smile grew onlymore charming. Many were the men who had died, that smile their last vision.

 実際、彼女の微笑は一層魅力的になっただけだった。それを死への引導とされた男たちも数多いた凄絶な微笑。

And now! Kitiara studied him. She saw the man. She saw--in her mind’s eye--that whining, puking baby. Abruptly, she turned away.

 そして、今!キティアラはじっとその弟を見つめた。若い魔法使いの姿。しかしその内側に――彼女の心の目に――あの泣きじゃくり、乳を吐いていた赤ん坊の姿が蘇った。つと、彼女はそっぽを向いた。

“My little brother believs in that, apparently.”
“When he was small, I taught him that to refuse to do my bidding meant a whipping. It seems he must learn that lesson again!”

「弟は明らかに運命の存在を信じている」
「弟には、小さい頃、わたしの命令に逆らうと鞭でぶたれることを教えてある。どうやら、もう一度教え込んでやらねばならないようだな!」

***

(翌日加筆)
 約二十年前の初読時と、二年前の全巻通しての再読、そして現在原文と併せての精読。いろいろ自分の中で各キャラやシーンの印象が変化しましたが、最たるものはキティアラ様です。初読時は「(いろんな意味で)悪いお姉さん」でしかなかった彼女の魅力に浸ったり唸らされたりしています。

「弟には、小さい頃、わたしの命令に逆らうと鞭でぶたれることを教えてある」

 これだけ見ると、弟たちを力で支配し自分の意のままにする暴君、という印象です。ですがこの「命令」、原文では”command”ではなく”bidding”だったんですね。禁止、禁則事項。
「意に沿わぬことを鞭打ってやらせる」のではなく、
「やってはいけないと言われたことをやったらお仕置き」だったんです。
 なあんだ、幼い弟たちを危険から遠ざけるための、普通のしつけではないですか。子供のしつけに鞭が出てくるのは、海外文学では普通のことですし。愛情あふれるキティアラお姉ちゃんが、さらに存在感を増してきました。


"I, too, believe in fate, Kitiara," the death knight murmured. "The fate a man makes himself."

「わたしも運命の存在を信じておるぞ、キティアラ」死の騎士はつぶやいた。「運命とは自分で作り出すものだ、ということをな」

“Who will learn this lesson, I wonder?”

「教え込まれるのは、いったい誰のほうやら?」

2016年4月8日金曜日

伝説1巻p125〜《黒の女卿》

TIME OF THE TWINS p70
Palantas--fabled city of beauty.
A city that has turned its back upon the world and sits gazing, with admiring eyes, into its mirror.

伝説1巻p125
 パランサス――名にしおう美の都。
『世の中に背を向けて、うっとりとおのれの鏡像に見入っている都』

Who had described it thus? Kitiara, seated upon the back of her blue dragon, Skie, pondered idly as she flew within sight of city walls.

(そう評したのは誰だったか?)キティアラは青い騎竜スカイアにまたがって空中から市壁を望みながら、なにともなくそう考えた。

The late, unlamented Dragon Highlord Ariakas, perhaps. It sounded pretentious enough.

(惜しまれることなく死んだ、あのドラゴン卿アリアカスあたりか。このもったいぶった言いまわしは、あの男の言いそうなことだ)

 “No, my pet,”

He achieved some satisfaction, however, by breathing a bolt of lightning from his gaping jaws, blackening the stone wall as he soared past, keeping just out of arrow range.

「それはならぬ」

 そして、鬱憤晴らしに、矢の射程外ぎりぎりを保って胸壁を飛びかすめ、かっと開いた口から稲妻の息を吐いて壁石を焦げつかせ、慰めとした。 

***

 戦記4巻で、キティアラ様が人間の副官バカリスを”my pet”と呼んでいたときはひっくり返ったものですが(邦訳にはないんですこの言葉!)スカイアなら、まあ…ありか。


“And daily I grow in strength and in might,”

「わたしは日毎に力を貯えつつあるというのにな」

***

 日本語の色の語彙は豊富ですが、「力」の表現は英語に及ばないようです。powerもforceもenergyも。近代物理学を日本に紹介した人は苦労したことでしょうね。


And if his eyes laughed at her, what would those golden eyes of the mage reveal? Not laughter--triumph!

(ソスの眼でさえ嘲笑するくらいだ。かれの金色の眼なら、いったいどんな感情を見せることか。嘲笑どころではなく、勝利の陶酔感だろう!)

“See this you accursed creatures of living death?” she sxreamed shrilly. “You will not stop me! I will pass! Do you hear me? I will pass!”

「これが見えるか、生ける屍と化した呪われたる者どもよ?!」彼女は高らかに叫んだ。
「おまえたちにはわたしは阻めぬ!わたしはここを通るぞ。聞こえたか?無事通ってみせるぞ!」

***

 英語の「意志」と、未来を示す語が同一であることを強く感じさせる台詞。


“I should kill you, you damned bastard!” Kitiara said through numb lips, her hand on the hilt of her sword.
“I am overjoyed to see you, too, my sister,” Raistlin replied in his soft voice.

「おまえなぞ殺してくれるわ、この鬼子め!」キティアラは恐怖でかじかんだ唇で言い、剣の柄に手をかけた。
「ぼくも会えてうれしいですよ、姉上」レイストリンがもの柔らかに答える。

Raistlin smiled, the rare smile that few ever saw. It was, however, lost in the shadow of his hood.

 レイストリンはにっこりと微笑した。ほとんど人に見せたことのない、稀な微笑。しかしそれは、フードの陰にまぎれてしまった。

***

 このrareな表情は、ザク・ツァロスでブープーに向けたのと、あるいはネラーカでキャラモンに祝福とともに別れを告げた時と同じ種類の顔だったんでしょうか。皮肉屋が垣間見せる真実の一瞬。


“Knight of the Black Rose,” continued Raistlin, “who died in flames in the Cataclysm before the curse of the elfmaid you wronged dragged you back to the bitter life.”

「黒薔薇の騎士殿」とレイストリンは続けて、「大変動の炎の中で命を落としたものの、エルフ乙女の恨みの呪いで、死霊としてこの世に留まるを余儀なくされた、とはあなたのことですね」

“Such is my tale,” the death knight said without moving. “And you are Raistlin, master of past and present, the one foretold.”

「よくご存知だな」死の騎士は無表情に言った。「そして、そなたはレイストリン。過去と現在の主にして、予言されたる者」

The two stood, staring at each other, both forgetting Kitiara, who--feeling the silent,deadly contest being waged between the two--forgot her own anger, holding her breath to witness the outcome.

 二人は向かいあったまま、お互いを見つめあっていた。忘れられたキティアラは――二人の間に無言の壮絶な戦いが交わされているのを感じとって――自分の怒りを忘れ、息をつめて結果を待った。

2016年4月7日木曜日

伝説1巻p108〜《出発》

TIME OF THE TWINS p60
But, as he studied the room of her own, the kender faded. Above the door, he could see clearly, despite some weathering, the carefully crafted mark denoting a wizard’s residence.

伝説1巻p108
 が、その部屋にさらに目を凝らすと、かれの微笑は消えた。扉の上方に、少し風化しているにもかかわらず、はっきりと見える丁寧な細工――それは魔術を扱う者の住まいであることを示す紋章だった。

“A woman, a stranger, wasts to help Raist. And risk her life to do it.”

「見ず知らずの人間が、それも女の身で、レイストを助けようとしている。しかも、命がけで」

“He needed me…then.”
“And Crysania needs you now!”

「あいつはおれを必要としていた……あの時は」
「クリサニアは今あなたを必要としているのよ!」

“Me hungry,” said the bundle to Tas accusingly. “Whe we eat?”
“I went on a quest for Bupu,”

「おら、おなかすいた」包みは責めるようにタッスルに訴えた。「ごはん、いつ?」
「ぼく、ブープーを探し出してきたんだ」

***

 タッスル&ブープー登場!この後タッスルが語ったクリサニアの行動には感心させられました。ケンダーの話に真剣に耳を傾け、どぶドワーフに価値を見出す彼女はやっぱり並の人間ではないのです。


At this point, Tas was forced to look somewhere else. The kender thought he was going to laugh but was startled to find himself on the verge of tears.

 この姿を見て、タッスルは目を外らさざるをえなかった。笑ってはいけないと思ったからだが、タッスルは自分でも驚いたことに泣きそうになっていた。

“Him look just like my Highbulp, Phudge I,”

「このひと、おらのバルプ大王ファッジ一世に、そっくり」

“Raistlin himself told you to walk your own path and let him walk his.”

「レイストリン自身が忠告したじゃない、あなたはあなた自身の道を歩むように、と。そしてかれにもかれの道を歩ませてくれるように、と」

“You’re trying to walk both paths, Caramon. Half of you is living in darkness and the other half is trying to drink away the pain and the horror you see there.”

「あなたは二股をかけようとしているのよ、キャラモン。あなたの半身は闇の中にいる。そして、そこで目にする苦痛や恐怖をまぎらせようとして、残りの半身が酒にすがっているんだわ」

“But you are not coming back to me as husband or even friend until you come back at peace with yourself.”

「でも、あなたが自分自身と和解して戻ってくるのでない限り、あなたはわたしの夫でもなければ、友人でさえない」

Tas suddenly remembered her fighting draconians in the Temple at Neraka that last horrible night of the war. She had looked just the same.

 タッスルはふと、先の大戦のあの凄惨な夜にネラーカの<神殿>でドラコニアンたちと闘っていた彼女を思い出した。あの時の彼女は今とそっくりだった。

***

 ティカ、凄いよティカ、あの時も今も。キャラモンやクリサニアと違い、相手の欠点を直視した上でまるごと愛し、必要なことを言ってあげられる勇気と賢さ。本当にキャラモンにはもったいないです。

2016年4月6日水曜日

伝説1巻p48〜《need me》

TIME OF THE TWINS p48
“He was so happy, Tanis, for a while. People needed him.”

伝説1巻p86
「この人はとっても幸せだったの、タニス、しばらくの間はね。みんながかれを必要としてくれた」

“No one needed him,”
“Not even me….”

「かれを必要とする人が誰もいなくなったわけだ」
「わたしまでもが……」

***

They don’t understand. They don’t need me. Even Tika doesn’t need me, not like Raist needed me. 
 だが、かれらにはわかっていないのだ。かれらはおれを必要としていない。ティカでさえおれが必要ではない――レイストがおれを必要としたようには。

 鮮血海の底でのキャラモンの絶望。かれにとって最も重要なもの、力の源は「必要とされること」でした。自分でもあんまりな例えだとは思いますが、レイストリンの件がかれにとどめを刺した毒物や病原菌だとすれば、ティカやソレースの人々に必要とされなくなったことは、栄養失調や睡眠不足による体力の低下のようなものだったのかもしれません。


“Caramon wrote to him, Tanis. I saw the letter. It was--it tore my heart. Not a word of blame or reproach. It was filled with love. He begged his brother to come back and live with us. He pleased with him to turn back on the darkness.”

「噂を聞いて、キャラモンはあの人に手紙を書いたわ。わたし、その手紙を見たの。胸が張り裂けたわ。一言も非難や咎めだての言葉はなかった。愛情いっぱいの手紙だった。戻ってきておれたちと一緒に暮らそう、と頼んでたわ。どうか闇に背を向けてくれ、と書き連ねて」

“’I have no brother. I know no one named Caramon.’ And it was signed, Raistlin!”

「『ぼくには兄はありません。キャラモンという名の者など知りません』そして、レイストリン、と署名して!」

“Caramon…This is Caramon Majere? This is his brother?”

「キャラモン――これがキャラモン・マジェーレなのですか?これがあの人の兄?」

“Your ‘sensitive and intelligent perfectioninst’ had a hand in making this man the ‘pathetic wretch’ you see, Revered Daughter,”

「あなたのおっしゃる『鋭敏で知的な完全主義者』が、この男を、ご覧のような『情けない破廉恥漢』にするのに一役買ったのですけどね、聖女さま」

“Perhaps it was for lack of love that Raistlin turned from the light to walk in darkness.”

「愛情が欠けていたために、レイストリンが光に背を向けて闇の道へと歩み入るようなことになったのではありませんか?」

Tika looked up at Crysania, an odd expression in her eyes. “Lack of love?” she repeated gently.

 ティカがクリサニアを見上げた。奇妙な表情が瞳にうかんでいる。「愛情が欠けていた?」彼女は静かに繰り返した。

***

 うわっ、思わず頭抱えましたよここ。現代のネットスラングならDQN、KYというところでしょうか(実はあまり意味わかってません)。さっきの「愛情いっぱいの手紙」の話聞いてなかったんですか聖女さま。ティカ、よく掴みかからなかったものです。それは聖女さまへの尊敬の念ゆえか、それとも…


“Destroy!” Crysania regarded Tanis in shock, her gray eyes cold. “I do not seek his destruction.”

「滅ぼす?」クリサニアは驚いたようにタニスを見た。灰色の瞳が冷たい。「わたしはレイストリンの破滅を求めてなどおりません」

Tanis stared at her in amazement.
“I seek to reclaim him,”

 タニスが仰天して彼女を見つめる番だった。
「わたしはかれを回心させたいのですわ」

"You are very wise, Tanis Half-Elven. But this time you are wrong,"
"Lady Crysania isn't mad. She's in love."

「あなたはとても賢いわ、タニス。でも、今回はあなたは間違ってる」扉口に佇んで、彼女は胸の内でつぶやいた。「レディ・クリサニアは狂ってるんじゃないのよ。彼女は恋をしてるのよ」

2016年4月5日火曜日

伝説1巻p12〜《喝采》

TIME OF THE TWINS p37
“In many ways, she begins a journey much like your own years ago--seeking self-knowledge. No, you are right, she doesn’t know this herself yet.”

伝説1巻p67
「いろいろな意味で、彼女は旅立とうとしています。ちょうど数年前のあなたのように――自己認識を求めて。いや、あなたの思われるとおり、彼女は自分ではまだこのことに気づいていません」

Thouh he had come to a strong belief in the true gods--more through Laurana’s love and faith in them than anything else--he felt uncomfortable trusting his life to them, and he grew impatient with those Elistan who, it seemed, placed too great a burden upon the gods.

 かれはまことの神々に強い信仰を抱くようになっていた――それには、何にもましてローラナの愛情あふれる信仰心が影響していた――が、自分の人生を神々に委ねてしまうのには抵抗があり、そして、エリスタンのように神々にあまりにも多くの荷を負わせすぎているように見える人々に対しては、いらだちを覚えてしまうのだった。

Let man be responsible for himself for a change, Tanis thought irritably.

 少しは自分で責任を負ったらいいじゃないか、とタニスはいらだたしく考えた。

A murmur--both reverent and respectful--went through the crowd.
“A holy cleric!”

 群衆の中にさざめき――尊敬と崇拝の念の――が走った。
「聖なる僧侶さまだ」

“I am honored,”
“to meet two whose deeds of courage shine as an example to us all.”

「お目にかかれて光栄に思います」
「お二方の勇気ある行動は、わたくしどもすべてにとって輝かしい模範となっております」

Tika flushed in pleased embarrassment. Riverwind’s stern face did not change expression, but Tanis saw how much the cleric’s praise meant to the deeply religious Plainsman. As for the crowd, they cheered boisterously at this honor to their own and kept on cheering.

 ティカは面映ゆさで頬を染めた。リヴァーウィンドのいかめしい顔は表情を変えなかったが、タニスには、この敬虔な平原人にとって聖女である彼女からの褒め言葉がどれほど大きな意味をもつか察せられた。群衆はといえば、かれらは自分たちの英雄に対するこの名誉に大喝采し、それは止むことがなかった。

***

 ここ、釈然としない人多いんではないですかね。そもそも、困難な旅路の果てにミシャカルの啓示を受け、青水晶の杖をゴールドムーンの許に持ち帰ったのはリヴァーウィンド。そしてタニスたちの助力を得た二人の犠牲(二人ともザク・ツァロスで一度死んだも同然でした)の成果が<円盤>獲得なわけで。エリスタンを癒し希望を取り戻させたのはゴールドムーンで、クリサニアはそれら全てが片付いてからエリスタンの弟子になって、本人もここは自覚しているように、まだ何も成し遂げてはいない身なのです。
 我々の感覚からいったら、神々への貢献度は

ゴールドムーン&リヴァーウィンド>竜槍の英雄たち>エリスタン>>クリサニア

 てところでしょう。それなのに、ぽっと出の聖女クリサニアに賞賛されてまんざらでないティカとリヴァーウィンド、喝采する人々。なかなか想像しがたい光景です。

 これが、原作が書かれたアメリカと日本の宗教観の違いなんでしょうか。
 何百年間とキリスト教の、そのうちの大部分はローマカトリック教会の精神的支配下にあった民族の子孫にとって、体系づけられた教会の高位聖職者や、認定された聖人、聖女さまはかほどにありがたい存在なのでしょう。信じる信じない、信仰の問題ではなく、生活習慣、意識の違いなのかもしれません。日本人のクリスチャンであってさえ(かつては自分もそうだと思っていた時期がありました)、この違和感はわかってもらえる、感じてもらえるんではないかと思います。

 信仰と常識と道徳観念が一緒くたになっている(らしい)一部のアメリカ人、学校で進化論を教えることを法律で禁じようとする人たちの見ている世界を、また少し覗き見た気がします。「信仰なしにどうして道徳的でいられるのか」と疑問を発する人たちが私は怖しい。もし神の存在が否定されたら、彼らの道徳もまた瓦解するのでしょうか?

 いやー毎度脱線甚だしい。さあさくさく進みますよ。


It was a man, Tanis saw, a huge man, but, as he looked more closely, he saw it was a man whose giant girth had run to flab.

 それは男だった。大男である。しかし、タニスがさらに目を凝らして見ると、それは巨大な胴回りをさらにだらしなくたるませた男だった。

“Tanish…my fri--“
“Name of the gods,”

「タニシュ……なつかし――」
「神々の名にかけて……」

Then--with a thud shook the Inn--Caramon Majere, Hero of the lance, passed out cold at Tanis’s feet.

 そして――どうと床を揺らして――<竜槍の英雄>キャラモン・マジェーレがタニスの足元に昏倒した。

2016年4月4日月曜日

伝説1巻p50〜《ソレース》

TIME OF THE TWINS p27
Two years ago--it would be three this autumn--he had topped this rise and met his long-time friend, the dwarf, Flint Fireforge, sitting on that boulder, carving wood, and complaining--as usual.

伝説1巻p50
 二年前――この秋が来ると三年になるが――かれはこの坂を登って来て、古馴じみの友、老ドワーフのフリント・ファイアフォージがあの岩にすわり、木切れを削りながら、例によって不平をこぼしているのに出会ったのだった。

“You--a hero!”
“Why beard?”
“You were ugly enough….”

『おまえさんが、英雄とはね!』
『なぜ、髭なんか生やす?』
『見られたもんじゃない……』

He and Flint had watched the lights flicker on, one by one, in the houses that sheltered among the leaves of the huge trees. Solace--tree city--one of the beauties and wonders of Krynn.

 かれは、巨木の葉陰に庇護されている家々に一つまた一つと灯りが点るのを、フリントと一緒に眺めていた。樹間の町ソレース――それは、クリンの美と驚異を代表する景観の一つだった。

For a moment, Tanis saw the vision in his mind’s eye as clearly as he had seen it two years before. Then the vision faded. Then it had been autumun. Now it was spring. The smoke was there still, the smoke of the home fires.

 つかの間、タニスの脳裏にまざまざと、二年前に見たその光景が浮かび上がった。が、その幻像はやがて消えた。あの時は秋だった。今、季節は春である。煙は今も漂っている。家々の炉の煙。

Tanis smiled grimly. He could imagine how an eyesore like that must irritate those who were working to forget. He was glad it was there. He hoped it would remain, forever.

 タニスは苦い笑みをうかべた。かれにはその黒い円が、忘れようと働いている人々にとってどれほど目障りでいらだたしいものか想像できた。しかし、かれはそれが残っているのが嬉しかった。いつまでも、永遠に残っていてほしかった。

***

 タニスの回想の中のソレースのなんと美しく、フリントのなんと慕わしいことか。取り上げるときりがないので、そろそろティカとリヴァーウィンドのターンにしましょう。


“How is Goldmoon and your son?”
“She is fine and sends her love,”
“My son”--his eyes glowed with pride--“is but two, yet already stands this tall and sits a horse better than most warriors.”

「ゴールドムーンと坊やのようすはいかが?」
「妻は元気だ。君によろしくと言っていた」
「倅は」――かれの目が誇らしそうに輝いて――「まだ二歳だが、背がこんなに伸びて、おおかたの戦士も顔負けに馬を乗りこなす」

“Two?” Tika looked puzzled, then, “oh, twins!” she cried joyfully. “Like Caramon and Rais--“ She stopped abruptly, biting her lip.

「二人?」ティカはとまどったが、やがて、「まあ、双子なのね!」と嬉しそうに言った。「ちょうどキャラモンとレイ――」はっと言葉をとめて、彼女は唇を噛んだ。

2016年4月3日日曜日

伝説1巻p28〜《招待》

TIME OF THE TWINS p13
Raistlin laughed.

伝説1巻p28
 レイストリンが声をたてて笑った。

It was thin, high-pitched, and sharp as a blade. It denied all goodness, mocked everything right and true, and it pierced Crysania’s soul.

 それは細くかん高く、刃のように鋭い声だった。あらゆる善を拒み、あらゆる正義や真実を嘲笑うその声が、今クリサニアの魂を貫いた。

***

 出ました、タニスちゃんどん引きのレイストリン笑い。それでも引かずに睨み返したクリサニア様、やっぱり只者じゃないです。


Suddenly, perhaps realizing the fearlessness with which she confronted him, Raistlin’s laughter ceased. Regarding her intenly, his golden eyes narrowed.

 不意に、眼前の彼女が恐れを知らない態度で立ち向かっているのを悟ったのだろう、レイストリンの笑い声が止んだ。彼女をじっと見つめて、金色の眼がすっと細くなる。

Then he smiled, a secret inner smile of such strange joy that Astinus, watching the exchange between the two, rose to his feet.

 が、すぐにかれは微笑した。異様な喜びに満ちた秘密めいた微笑。二人のやりとりを見守っていたアスティヌスは、思わず椅子から立ち上がった。

***

 この時のアスティヌスの動揺ぶり。おそらく彼は感じたのでしょうね。自分が見、記録してきた歴史が、フィスタンダンティラスがデヌビスを伴ってザーマン要塞に赴いた過去が揺らぐ、最初のさざ波を。


“How brave you are, Revered Daughter,” he commented. “You do not tremble at my evil touch.”
“Paladine is with me,”

「なかなか勇敢ですね、聖女どの」かれはほめた。「邪悪なぼくの手に触れられても、震えていない」
「パラダインがわたしとともにおられますもの」

Now Crysania trembled at his touch, but she could not move, she could not speak or do anything more than stare at him in a wild fear she could neigher suppress nor understand.

 今度は、触れられて、クリサニアは震えた。しかし、彼女は動けなかった。しゃべることもできなかった。何ひとつできず、ただ恐怖でかれを見つめるばかりだった。抑えることも理解することもできない激しい恐怖。

“Of course,” Raistlin sighed wearily, and there was an rxpression of sorrow in his face and voice, the sorrow of one who is constantly suspected, misunderstood.

「いかにも」レイストリンは力なくため息をついた。かれの顔にも声にも、悲哀の表情があった。絶えず疑われ、誤解されている者の悲哀。

“If you truly do not fear the knowledge, then come to the Tower two nights from this night, when Lunitari makes its first appearance in the sky.”

「もし知ることを本当に恐れないのなら、二日後の夜、ルニタリが天に姿を現わすとき、<塔>においでなさい」

“I will be there,” Crysania answered firmly, noting with pleasure Bertrem’s look of shocked horror.

「必ず伺いますわ」クリサニアはきっぱりと答え、バートレムがぎくりと衝撃を受けた様子に快感を覚えた。

“I accept your challenge. I will not fail you! I will not fail!”

「厳しい試練をありがとうございます。必ずなしとげてみせます!必ずなしとげてみせます!」

***

 敬意、嘲笑、おだててからの恐怖、脆弱な体までも利用してクリサニアを翻弄するレイストリン。二年間魔法の研究だけやってた訳じゃないんですね。さすがキティアラ様の弟、素質はあったということですか。