Then, with a courtly gesture, the cursed Knight of Solamnia placed his hand over that portion of his anatomy that had once contained his heart.
“But I bow in the presence of a master,” Lord Soth said.
伝説1巻p139
と、優雅な物腰で、呪われたソラムニア騎士はかつて心臓のあった胸の上に手を当てた。
「だが、わたしは主なる者の前では頭を垂れよう」ソス卿は一礼した。
Kitiara tewed her lip, checking an exclamation.
キティアラは唇を噛みしめて叫びを堪えた。
“Dissapointed, my dear sister?”
「落胆なさいましたか、愛しい姉上?」
***
落胆だったのか、それとも安堵だったのか。本人もわかっていないのでしょうね。ソス卿がレイストリンに触れんばかりに近づいたのを見て、呼吸を早めたその時も。
“And she came?”
“Oh,quite eagerly, I assure you.”
「それで、彼女はわざわざやって来た?」
「それはもう、いそいそとね」
“You don’t wanr the world,”
“Then that leaves only--“
Kitiara almost bit her tongue.
「世界が欲しくないとはね」
「ならば、残るはただ一つ――」
キティアラは危うく舌を噛みかけた。
“Now you see the importance of this Revered Daughter of Paladine! It was fate brought her to me, just when I was nearing the time for my journey.”
「これで、このパラダインの聖女のもつ重要性もおわかりでしょう!ぼくの旅立ちの時が近づいているちょうどそのときに彼女が現われるとは、まさに天の配剤ですよ」
“How--how do you know she will follow you? Surely you didn’t tell her!”
「どう――どうして彼女がおまえについてゆくだろうとわかる?彼女にすべてを話したわけではあるまい」
“Only enough to plant the seed in her breast,” Raistlin smiled, looking back to that meeting. Leaning back, he put his thin fingers to his lips.
「彼女の胸に種子を撒くに充分なだけは話しましたよ」レイストリンは微笑しながら、例の邂逅を改装した。椅子の背にもたれ、かれは細い指で自分の唇に軽く触れた。
“my performance was, frankly, one of my best. Reluctantly I spoke, my words drawn from me by her goodness and purity. They came out, stained with blood, and she was mine…lost through her own pity.”
「率直に言って、ぼくの演技は上出来だったな。気乗りしない風にぼくが語っていると、彼女の善良さと純粋さがぼくから勝手に言葉を引き出してくれた。引き出された言葉には血のしみがついていて、そうなれば彼女はもうぼくのもの――彼女は自分の同情心に溺れたわけだ」
***
かつてはキャラモンにしか通用しなかった(キャラモンにしか使っていなかった?)人誑しスキル、よく二年間で鍛えたものですね。クリサニア、ダラマール、危うく実の姉にまで。
What if he isn’t insane? What if hw really means to go through with this?
<かれが狂っていないとしたら?かれが本当にこれをやってのけるつもりだとしたら?>
In fact, her smile grew onlymore charming. Many were the men who had died, that smile their last vision.
実際、彼女の微笑は一層魅力的になっただけだった。それを死への引導とされた男たちも数多いた凄絶な微笑。
And now! Kitiara studied him. She saw the man. She saw--in her mind’s eye--that whining, puking baby. Abruptly, she turned away.
そして、今!キティアラはじっとその弟を見つめた。若い魔法使いの姿。しかしその内側に――彼女の心の目に――あの泣きじゃくり、乳を吐いていた赤ん坊の姿が蘇った。つと、彼女はそっぽを向いた。
“My little brother believs in that, apparently.”
“When he was small, I taught him that to refuse to do my bidding meant a whipping. It seems he must learn that lesson again!”
「弟は明らかに運命の存在を信じている」
「弟には、小さい頃、わたしの命令に逆らうと鞭でぶたれることを教えてある。どうやら、もう一度教え込んでやらねばならないようだな!」
***
(翌日加筆)
約二十年前の初読時と、二年前の全巻通しての再読、そして現在原文と併せての精読。いろいろ自分の中で各キャラやシーンの印象が変化しましたが、最たるものはキティアラ様です。初読時は「(いろんな意味で)悪いお姉さん」でしかなかった彼女の魅力に浸ったり唸らされたりしています。
「弟には、小さい頃、わたしの命令に逆らうと鞭でぶたれることを教えてある」
これだけ見ると、弟たちを力で支配し自分の意のままにする暴君、という印象です。ですがこの「命令」、原文では”command”ではなく”bidding”だったんですね。禁止、禁則事項。
「意に沿わぬことを鞭打ってやらせる」のではなく、
「やってはいけないと言われたことをやったらお仕置き」だったんです。
なあんだ、幼い弟たちを危険から遠ざけるための、普通のしつけではないですか。子供のしつけに鞭が出てくるのは、海外文学では普通のことですし。愛情あふれるキティアラお姉ちゃんが、さらに存在感を増してきました。
"I, too, believe in fate, Kitiara," the death knight murmured. "The fate a man makes himself."
「わたしも運命の存在を信じておるぞ、キティアラ」死の騎士はつぶやいた。「運命とは自分で作り出すものだ、ということをな」
“Who will learn this lesson, I wonder?”
「教え込まれるのは、いったい誰のほうやら?」
こんにちは。遂に始まった伝説の原文比較、毎日心待ちにしています。
返信削除今回で一番好きなのは、キティアラが立派になった弟の姿を見て、ひ弱で手のかかる赤ん坊だった頃を思い出す様子。それがドラゴン女卿であるだけに、胸に何かがこみ上げてきます。
彼女にとって、レイストリンは大魔法使いになってもずっと"baby brother"なんですね。
こんにちは、ご愛読&コメントありがとうございます。
返信削除キティアラもレイストリンも、互いを愛していなかったわけではなく、ただ野心が愛を上回っただけ。原文と照らし合わせてより一層、そのことが表現の端々に感じられて胸が痛くなります。
この記事の後半、キティアラ様についてちょっと加筆しましたのでよかったらご覧くださいませ。
『魂の鍛錬』には、キティアラは双子をsmack(ぴしゃりと打つ)ことはあったがそれは愛情からで、それ以上のことをするにも理由があると双子は理解していた。という供述もありました。
返信削除伝説と合わせると、双子の教育に責任を持つ父性的なお姉さんなのだと実感します。
ありがとうございます。やっぱり愛情あふれるお姉ちゃんと、それを理解している弟たち。未訳シリーズ、気になって仕方がないです。
返信削除ちゃんと辞書を引いたら「禁止」はbidじゃなくてforbidでした…恥ずかしい。戒めのためにこのままにしておきます。それでもcommandよりマイルドな響きですしね、一応(汗)