2016年4月12日火曜日

伝説1巻p201〜《物見》

TIME OF THE TWINS p113
“Events are transpiring in the outside world, Shalafi, that demand your attention.”
“Indeed?”
“Lady Crysania--“
Raistlin’s hooded head lifted quickly. Dalamar, reminded forcibly of a striking snake, involuntarily fell back a step before that intense gaze.

伝説1巻p200
「外の世界で、シャラーフィさまのお耳に入れておくべき事件が起きております」
「本当に?」
「レディ・クリサニアが――」
 フードをかぶったレイストリンの頭がさっと上がった。ダラマールは思わず蛇の襲撃を連想して、師の凝視の前に不覚にも一歩たじろいだ。

“What? Speak!”
“You--you should come, Shalafi,”
“The Live Ones report….”
The dark elf spoke to empty air. Raistlin had vanished.

「何と? 話せ!」
「直接――直接おいでいただいたほうがよいと思います、シャラーフィさま」
「<生ける者たち>の報告では……」
 黒エルフの眼前は無人になっていた。レイストリンはかき消えていた。

Though the most powerful mage living upon Krynn, Raistlin’s power was far from complete, and no one realized that more tha the mage himself.

 クリン上で最強の魔法使いとはいえ、レイストリンの力はまだ完成には程遠く、そしてそのことは本人が一番熟知していた。

He was always forcibly reminded of his weaknesses when he came into this room--one reason he avoided it, if possible.

 この部屋に来るたびに、かれは自分の弱さを思い知らされた――かれがなるべくこの部屋に来るのを避けているのは、それが一つの理由だった。

For here were the visible, outward symbols of his failness--the Live Ones.

 ここにあるものこそがかれの力不足の目に見える具現化した象徴――すなわち<生ける者たち>なのである。

Raistlin materialized within the Chamber of Seeing, a dark shadow emerging out of darkness.

 その<物見の部屋>に、レイストリンは暗黒の中から生じた黒い影のように実体化した。

***

 怪しくもおぞましい人工生命体。いかにも「邪悪な魔法使い」のやりそうな定番ですね。しかし、私はここにレイストリンの優しさを感じました。心底邪悪な魔法使いなら、見るも厭わしい失敗作など即刻処分してしまうはずです。それでも彼らを生かし続け、物見の池の見張りという仕事まで与えているのは、絶え間ない苦痛にもかかわらず、彼らが生きていたいと望んだから、それが最大の理由ではないんでしょうか。もちろん、己への戒めもあるのでしょうけれども。


“No mark, no wound, draconians coming out of nowhere…”

「死の兆候はなし。傷跡もなし。どこからと知れず現われたドラコニアン……」

“’Big dark, eyes of fire’--Lord Soth! So, my sister, you betray me,”

「『大キナ闇、炎ノ眼』――ソス卿か! では、姉上よ、あなたはぼくを裏切ったのですね」

“I could have made you queen of this world.”

「ぼくならあなたをこの世界の女王にもしてあげられたのに」

Raistlin stood quietly, pondering, staring into the still pond. When he spoke next, his voice was soft, lethal.

 レイストリンはじっと考えを凝らしながら、静かな池を見つめていた。ようやく口を開いたとき、かれの声は柔らかなくせに凶器のようだった。

“I will not forget this, my dear sister. You are fortunate that I have more urgent pressing matters at hand, or you would be residing with the phantom lord who serves you!”

「このことは決して忘れませんよ、愛する姉上。ぼくに、これ以上の急を要する仕事があるのは、あなたにとって幸運でしたね。さもなければ、あなたをその忠義な死霊の騎士の版図へ送り込んでさし上げたものを」

Raistlin’s thin fist clenched, then--with an obvious effect--he forced himself to relax.

 レイストリンは細い手で拳を固めたが、やがて――傍目にもわかるほど努力して――なんとか全身の緊張を解いた。

***

 クリサニアの危機に際して、レイストリンが緊張と感情を露わにする印象的なシーンです。一方で、キティアラ様急上昇中の今回は、今度こそ利害が一致し、一緒にやっていけると期待していた姉に裏切られた、という思いが強く突き刺さります。愛あればこそ、裏切られた反動の憎しみのなんと激しいことか。

“I could have made you queen of this world.”


“Bupu!” Raistlin whispered, the rare smile touching his lips. “Excellent. Once more you shall serve me, little one.”

「ブープー!」レイストリンがささやく。かれの唇に、めったに見られない微笑が覗いた。「素晴らしい。おちびさん、きみにはもう一度ぼくの役に立ってもらおう」

Lizard cure,” Bupu said in triumph. “Work every time.”

『とかげが効いた』ブープーが誇らしげに言う。『いつだって、よく効く』

“Yes, my little one,” Raistlin said, still smiling. “It works well for coughs, too, as I remember.”

「そうとも、ぼくのおちびさん」レイストリンはまだほほえんでいた。「それが咳にもよく効くのは、ちゃんと憶えているよ」

“And now, sleep, my brother, before you do anything else stupid. Sleep, kender, sleep, little Bupu. And sleep as well, Lady Crysania, in the realm where Paladine protects you.”

「さあ、眠るがいい、兄さん、これ以上また愚かなことをする前に。眠るがいい、ケンダー、眠るがいい、おちびさん。そしてレディ・クリサニアも、パラダインの守護下でいましばらく眠るがいい」

“And now come, Forest of Wayreth.”

「さあ、来たれ、ウェイレスの森よ」

“And you come, too, apprentice”--there was the faintest sarcasm in the voice that made the dark elf shudder--“come to my study. It is time for us to talk.”

「さあ、君も来るんだ、わが弟子よ」――その声に潜んだかすかな皮肉が黒エルフをわななかせた――「ぼくの書斎へ来たまえ。そろそろ二人で語りあおう」

***

 呪文の一節としての”And now come,”と、日常会話の”And you come,”と。呪文は本当に終わったのか、まだ続いているのか、それともこれから始まるのか…?

 明日はダラマールのターンですよー。

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