“Forgive me if I do not trust you, old friend, as I might once have done. But your robes seem to be turning as gray as your hair.”
伝説1巻p328
「旧友のあなたを信用していないようなのは――以前にも一度あったこととはいえ――申し訳ないけれど、でも、あなたのローブはその髪の色と同じく灰色に転じつつあると思えるのでね」
Justarius smiled, as if this amused him.
ユスタリウスがくすりと笑った。
***
as if this amused him--まるで楽しんでいるかのように。つまりはちっとも楽しくないということを、省略したのは何故なんでしょうね。
Reaching beneath his robes, he drew forth a silver key that he wore around his neck on a silver chain--the key that only the Master of a Tower of High Sorcery may use. Once there were five, now only two remained.
ローブの内側に手を入れ、かれは首から銀の鎖で下げている銀の鍵を取り出した――<上位魔法の塔>の塔主のみが使用できる鍵である。かつては五本存在したこの鍵も、今はわずか二本が残るだけである。
As Par-Salian took the key from around his neck and inserted it into an ornately carved wooden chest standing near his desk, all three mages present were wondering silently if Raistlin was--even now--doing the same thing with the key he possessed, perhaps even drawing the same spellbook, bound in silver.
パー=サリアンは鍵を首からはずして、机のそばにある美しい木彫りの箱に差し込んだ。三人とも無言だったが、皆、心の中では感じていた。もしやレイストリンも――今この瞬間にも――もう一本の同じ鍵で同じことをしているのではないか? 今、同じ箱から、同じ銀の装丁の呪文書を取り出しているのではないか?
Justarius said with a low whistle of surprise. “That was a well-kept secret.”
“They were fools to even try it,” Par-Salian said, “but they were desperate.”
“As are we,” Ladonna added bitterly.
ユスタリウスが低く驚きの口笛を吹く。「よく隠されてきたものだ」
「試みるまでもない大それた愚行だよ」とパー=サリアン。「だが、かれらはそれほどやむにやまれぬ思いだったのだ」
「われわれと同じように」ラドンナが苦々しげに言い添える。
“I have an ancient one. I will give it Caramon.”
His emphasis on the man’s name was unconscious, but everyone in the room noticed it.
「わたしの手元に古来の魔導器が一つあるから、キャラモンにはそれを持たせる」
かれは無意識にキャラモンの名前を強調したが、室内の誰もがそれに気づいた。
“The truth could destroy him,”
“There is very little left to destroy, if you ask me,”
「真実を知ればかれは人格崩壊するかもしれない」
「かれには崩壊するほどのものはほとんど残っていないわ、わたしに言わせればね」
“If you believe it will wash the blood from your robes, then help him, by all means,” She smiled grimly.
「あなたがもし、かれを救うことでその白いローブから血を洗い流すことができると信じているなら、どうぞ万全を尽くして救ってやればよい」彼女は苦い微笑を浮かべた。
“In a way, I find this quite funny. Maybe--as we get older--we aren’t so different after all, are we, my dear?”
「ある意味では、わたしは今回の件を至極愉快に思う。多分――歳をとって――わたしたち二人とも結局お互いさして違いはなくなったというわけではないかな、親愛なるパー=サリアン?」
“The differences are there, Ladonna,” Par-Salian said, smiling wearily. “It is the crisp, clear outlines that begin to fade and blur in our sight.”
「違いはあるとも、ラドンナ」パー=サリアンが疲れた微笑を返す。「だが、われわれの視力が衰えて、はっきりとした明確な輪郭線がぼやけはじめたのさ」
“If you fail--“
“Enjoy my downfall.”
“I will,”
“the more so as it will probably be the last thing I enjoy in this life.”
「もし貴殿が失敗すれば――」
「そのときは、わたしの転落を楽しんでくれ」
「そうしよう」
「大いに楽しむことにしよう。わたしの人生で楽しめる最後のことになりそうだから」
***
あの消えた未来、キャラモンが見てきた世界において、果たして彼女は本当に楽しんだのだろうか。かの歴史書に書かれているなら確かめてみたい気がします。
“It is a strange charm Raistlin possesses! You never met him, did you? No. I felt it myself and I cannot understand….”
「なんと不思議な魅力をレイストリンはもっていることよ! 貴公はかれとは会ったことがなかろう? ないな。 わたしは自分でもその魅力を感じるのだが、どうにも理解ができん……」
“Perhaps I can,” Justarius said. “We’ve all been laughed at one time in our lives. We’ve all bee jealous of a sibling. We have felt pain and suffered, just as he has suffered. And we’ve all longed--just once--for the power to crush our enemies!”
「おそらく、わたしには理解できる」とユスタリウス。「われわれは皆、嘲笑を受けたことが過去に一度はある。われわれは皆、きょうだいに嫉妬をしたことがある。われわれは苦痛や苦難を経験したことがある。ちょうどかれと同じように。そして、われわれは皆――一度くらいは――敵を破壊しつくせるほどの力を望んだことがある!」
“We pity him. We hate him. We fear him--all because there is a little of him in each of us, through we admit it to ourselves only in the darkest part of the night.”
「われわれはかれを憐れみ、かれを憎み、かれを恐れる――それはひとえに、われわれ一人一人が自分の中に少しずつ“かれ”をもっているからだ。ただ、われわれがそれを自覚するのは暗い夜の闇の底でだけなのだ」
“If we admit it to ourselves at all.”
「いったい自覚することなどあるのだろうか」
Shuttering the door too hastily, he caught the hem of his red robe and was forced to open it again to free himself. Before he closed the door again, he heard the sound of weeping.
扉を閉めるとき、かれはうっかりと赤いローブの裾をはさんでしまい、もう一度扉を開けた。裾を抜いて、かれは改めて扉を閉めたが、そのあいだ、中からは静かな泣き声が聞こえていた。
***
子供の頃は、主人公や味方が若くして散っていくアニメ等を観て、華々しい死に憧れたりしたものですが。ある程度生きてみて、長生きするのも悪くないなあと思うようになりました。さらには、こんな会話を交わせるようになるまで生きてみたいとも思います。ただ長く生きているだけでは駄目でしょうけれど。
ユスタリウスの説明が、レイストリンが読者に愛される全ての理由を物語っています。だからこそレイストリンを好きにならずにはいられません。
返信削除このような話ができる三強魔術師のように、素敵に年を取りたいものです。
ユスタリウスの洞察は、かれが直接レイストリンと会ったことがない、その魅力を感じたことがないゆえに的を射ているのかもしれませんね。目の当たりにしたレイストリンの姿に惑わされることなく、自分の中のレイストリンを直視するのは、誰にとっても困難なことなのだろうと思います。
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